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女性獣医師の本音トーク その13 Part2(①働く現場の生の声+②院長への提言)

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女性獣医師の本音トーク その13 Part2(①働く現場の生の声+②院長への提言)

 2022年1月、メディカルプラザの人材紹介事業ベテリナリオは、現在の人材採用難をどうすれば改善の方向に向けさせられるのかを考え始めました。
 そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
 それは、女性獣医師の存在です。
 メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
 しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
 そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
 ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生がご執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。

現職勤務医のリアルな勤務条件 〜 獣医師は労働時間が長いので、時給換算すれば低給与になる ~ <後編>

 匿名・女性勤務医 

 

 【編集部・注】

 前編に引き続き、個人病院、いわゆる「かかりつけ」といわれる小規模動物病院に勤務されている現役の女性獣医師の方からリアルな勤務条件をお話していただきます。

 

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勤務時間・休憩・残業代について

 ④ 勤務時間:平均8時~19時半、夜勤なし

 ⑤ 昼休憩:平均1~2時間

 ⑥ 残業代なし(看護師はある)

 

 この辺りは、法令違反なものもあるのであまり明るみには出ない。

 

 

 毎月もらう給与明細表では1日の実働時間はおよそ7時間で計算されているので、病院側も違法であることは理解しているのだろう。また、7時間からはみ出ている分は特に残業と認定されてはいないため、残業代は発生したことがない。

 

 外来診療こそ午前と午後とで計6時間となっているが、もちろんその時間だけが仕事の時間ではない。

 

 

 朝は診療開始の1時間ほど前に出勤し入院動物たちの管理、院内の清掃、日中では出来ない仕事をこなす。そして午前の診療を行い、それが終わり次第手術が始まる。この手術内容によって、その後の休み時間が変動する。

 そもそも手術の予定のない日は、午後の診療開始の30分ほど前までおよそ3時間半の休憩が取れる。

 

 その一方で大掛かりな手術が入れば、食事をとるのもままならないまま午後の診療に突入することもある。これらはいずれも稀なので、大概1~2時間は昼休憩が取れている。ただしその間に万が一急患が入れば対応せねばならないため、基本的に病院を離れることは許されない。

 

 

 そして午後の診療が終わると、病院全体の清掃やその日に来院した患者のカルテ整理、入院や預かりの子の管理を行う。診療の合間を縫ってこれらの雑務を少しずつ片付けていけば、平均して診療終了の30分後くらいには退勤することができる。

 

 しかし、診療終了直前に重症患者が飛び込んでくれば、その全ての処置が終わるまでは帰れない。万が一そのまま緊急手術となれば夜の予定はすべてパアだ。

 そして例えそれが夜中までかかったとしても残業代は支給されない。

 

 

 医療職として、この「勤務時間のコントロールのできなさ」はある程度仕方ないと思っている。

 ただ、それならそれに見合うだけの賃金が発生してしかるべきだろう。

 

院長には「人件費は無駄な出費ではない」との意識を持って欲しい

 ここまで述べた内容は、あくまでもとある個人動物病院における勤務実態の一例だ。

 

 労働基準法なんてどこ吹く風という勤務条件に、驚いた人もいるかもしれない。しかし正直なところ、周囲の様々な動物病院での実話を聞いていると、当院の労働環境は「だいぶマシ」と言わざるを得ない。

 

 よく耳にするのは、

 「週休2日を謳ってはいるが、自分の担当患者が入院している場合はその子の処置のためだけに毎日でも出勤しなければならない」

 「休み時間など無いのがデフォルト(標準)」

 「夜勤明けそのまま日勤がフツーにある」

 などだ。

 

 もちろん、ブラックな条件になればなるほど、給与の初期設定は高いことが多い。

 「臨床5年目で年収600万円~(獣医としては高給な方)」などという病院を見ると、「ああきっとロクに休みもないんだろうなあ」などと思ってしまう自分がいる。

 

 

 このような業界の中で、はたして結婚・出産後の女性獣医師が気持ちよく働けるだろうか?

 

 彼女たちは、例えば子どもが熱を出せば突然仕事を休まなければならなかったりするし、保育園の迎えのために毎日必ず18時までには退勤せざるを得なかったりもする。

 周囲が、大した残業代ももらえず時間の融通が利かない仕事を続けている中で、自分だけが残業を免除され、どのような重症患者が来ても途中離脱が許される。それがどれほど周囲との軋轢を生むか、想像に難くないだろう。

 

 また、基本的にどこの動物病院も慢性的に人手不足だ。その人手不足の中で、個人の突発的な休みや退勤は、周囲のスタッフにさらなる負担を強いることとなる。それが分かっている人間ほど、出産後の復帰は気が重く働きづらいと感じるのではないだろうか。

 

 その働きづらさを改善するためには、結局は人手不足の解消が必須要件だ。

 

 

 院長たちは、スタッフの誰がいつ突然休んでも大丈夫なように、人員を確保しておく必要がある。

 しかしそれは病院側に人件費の余裕がなければ実現できない。そのためにも、病院は人件費を削るのではなく売上を伸ばすことで利益を確保する方法を、しっかり見出していかなければならないのである。

 

 また、「求人募集や育休中の費用も含めた人件費を、無駄と思わない意識」を院長たちに根付かせる必要もあると思う。

 このような勤務条件(拘束時間の長さと、それに見合わぬ給与状況)では、よほどこの仕事にやりがいを感じ、プライベートの時間や生活レベルなどには特に構わないような奇特な人間しか残らない。

 

 

 出産後の女性獣医師だけでなく、あらゆるスタンスの人間にとって働きやすく、「やりがい」だけでなく雇用条件としても魅力的な職業にしていくこと。

 そうして臨床獣医師のなり手を増やし、様々な人間の様々な勤務形態を許容していく環境が整えば、おのずと出産後の女性獣医師も復帰しやすい業界になっていくのではないかと思う。

 

 

■この記事には<前編>があります。<前編>の記事は、こちらからアクセスしてください。
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 ※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。

 この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。

 これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。