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新設開業件数調査から読み取れた、勤務医の生涯設計(開業などの意識)

1、新設開業件数調査から読み取れた、勤務医の生涯設計(開業などの意識)

この記事は、メディカルプラザが2021年に全国のほぼすべての院長向けに発行した経営情報誌から、就職・転職、そして復職を目指す獣医師(勤務医)に重要な情報をピックアップして加筆・リライトしたものです。
 メディカルプラザは、「事業承継」を全国の院長に知らしめるために、2012年から動物病院業界唯一の経営情報誌を毎年発行してきました。
 その雑誌の中で毎年注視してきたのは、「新規開業件数の推移調査」です。
 どこの地域で新規開業が増えているのか、減っているのか。勤務医の生涯設計(開業などの意識)を知るための重要な調査です。
 その結果として分かったことは、首都圏の1都3県、愛知、大阪、兵庫といった大都市圏に新規開業が集中してきているということでした。
 なぜこの大都市圏に新規開業が集中しているのでしょうか。

1.大都市圏集中が進む新規開業の理由

 毎月開催している開業セミナーに参加される勤務医の多くの予測は、「これからヒトの人口が増えていく地域であるから集中しているのではないか」でした。
 メディカルプラザはこの点については「ヒトの人口が増えるからといって、犬猫の数が増えるとは限らない」ことを伝えた上で、3つの理由を説明しています。
  • 1つ目は、獣医科大学の偏差値が上がって子供を塾などに通わせられる比較的裕福な家庭が多い都市圏からの入学者が増えていること。
  • 2つ目は、開業するのが遅くなっているので、勤務医時代に交際や結婚する人が増え、開業する際には女性の意見を尊重しなければならない人が増えていること。
  • 3つ目は、以前は地方に帰って勤務したり、開業したりする人が多かったが、今では女性の意見を尊重して地方に帰らず、大都市圏に獣医師が集中していることです。
 ※大都市圏で開業が増える理由をコンサル西川がYouTubeで動画解説していますので、そちらをご参照下さい。

 そこでこの記事を読まれている勤務医に考えて頂きたいのは、「新規開業がこのまま大都市圏に集中し続けていくとどうなるのか」です。

2.大都市圏新設開業ラッシュの現状

 ちなみに、この大都市圏でどれだけの新設開業届が各自治体に出されているのか、その数字を紹介しましょう。
2014年 → 334件
2015年 → 327件
2016年 → 298件
2017年 → 363件
2018年 → 357件
2019年 → 336件
 大都市圏での新設開業ラッシュが続いていることで、これからどんなことが起きるのかを想像できるでしょうか。
 これだけ新規開業ラッシュが続いているこの大都市圏は、既存の動物病院がたくさんある地域でもあります。そしてヒトの数が増えている大都市圏だからといって、犬猫の数が増えているとは限りません。つまり、大都市圏は新規開業病院が増えれば増えるほど、競争が激しくなっていく地域であると言えます。このままの開業ラッシュが続けていけば、過当競争が激しくなり、経営上行き詰まる病院が増えてくる。そして経営破たんする病院が出てくる時代に入っていくことを意味しています。

 院長にとっては生きるか消えるか、勤務医にとっても今居る動物病院のこれからや転職先についてますます真剣に考えなければならない時代に入っていくことになります。
 人材紹介 ベテリナリオでは、メディカルプラザでのこうした分析を活かして、これからの変化に対応できうる動物病院を紹介します。ベテリナリオの人材紹介の考え方については、このサイト内の「ABOUT US」をぜひご参照下さい。
 そして2020年の新設開業件数の調査では、とんでもない事実が分かりました。
コロナ禍にあっても、動物病院の新設件数は空前の開業ラッシュになっていたのです。

3.2020年は空前の開業ラッシュ、そこからの徹底調査で分かった事実

 2020年は新型コロナ感染症防止のため、世界全体がロックダウンや緊急事態宣言などで外出や経済活動を制限しなければならない、非常事態でした。これは2021年の今日も続いています。

 一般のヒトの病院や歯科医院は、この新型コロナが感染症法上の位置付けとして危険度が5段階で2番目に高い「2類相当」に該当していることから、コロナ自粛で来院数を激減せざるを得なくなって経営が厳しい状況の病院もあります。同じ医療であっても動物病院は動物の医療なのでこの法適用を受けることはなく、忙しさは例年と変わらない、いや、それ以上だと実感されている勤務医も多いのではないでしょうか。

 逆に良いニュースとして、ステイホームや在宅勤務の影響によって、ペットを飼う家庭が増えています。JKC・ジャパンケネルクラブの調査でも、2020年は31万3120頭で、2019年の29万7227頭から増加に転じました。(JKCはこれは瞬間増加、バブル現象だと捉えて、コロナ後は再び減少に転じると分析しています)。
 飲食業やホテル観光業はもっとも大きなダメージを受けていますが、この動物病院業界は多くの動物病院が繁盛していて、コロナ禍であることを感じさせない状況にあります。

 そこでこのコロナ禍で新規開業件数がどうなったのかを調査しました。
「このコロナで開業を延期した勤務医が多かったのではないか」と編集部では予想していましたが、実際は、「2020年 → 418件」という、空前の開業ラッシュだったことが分かりました。
 この件数をお話しした、すべての院長が驚いておられました。

 この大都市圏での開業ラッシュを受けて、メディカルプラザでは自治体の開業届がどんな推移で動いてきたのかを徹底調査することにしました。
 東京都産業労働局食料安全課に依頼して調査して頂いた結果が、図表1です。22年間分のデータが集まりました。
図表1
図表1
 この調査により判明したことは、「東京都ではこの22年間、新設開業届出件数は増え続けてきた」という事実です。
しかも、1999年から2008年までの10年間の届出件数平均は97.6件であるのに対し、2009年から2020年までの12年間は136.5件と、40%もアップしていたことから、開業件数もどんどん増加傾向にあることが判明しました。


 この調査結果からこの動物病院業界について言えることは、「この業界は勤務医から開業しなければ、老後も含めた生活が成り立たない職業である」という点です。
開業しなくても生活できるのであれば、この新設開業件数は減ってきているはずだからです。
 「いずれは開業しなければならないと考えている勤務医が多い」ことがこの東京都の調査データの分析から見えてきました。

※コロナ禍での開業ラッシュについては、YouTubeサクセッションの動画「コロナ禍でも動物病院は開業ラッシュ! その理由を解説」をご参照下さい。

4.これからは「人材不足・求人難」で動物病院の二極化が決定的となる

 2003年の犬の頭数減少が始まったことによって、動物病院の格差が始まりましたが、現在では格差が一段階進んで、二極化が鮮明になってきています。

 売上規模で見る限り、売上1億円規模の動物病院が増えていることから考えて、強い病院(その地域のブランド病院、繁盛病院)には患者が集中してより強くなることで、新規開業病院の経営を圧迫するなどで動物病院業界の二極化はどんどん進んできました。
 そしてこれからは勤務医や看護士、スタッフの人材不足・求人難がより深刻化していくことによって、動物病院業界の二極化が決定的になっていくものとベテリナリオは予想しています。

 勤務医はますます開業意識が強くなって、繁盛病院の勤務医不足はますます深刻化していく。
 そのためか、動物病院の中には、「勤務医確保(開業させない)のために外科手術を勤務医にはやらせない」との情報も開業セミナー参加の勤務医からお聞きしています。

 そこでメディカルプラザは、全国院長に向けて、「危機感を持った勤務医から「手術をさせてくれる病院を紹介してほしい」との依頼を受けています。手術をさせないことで勤務医を抱え込もうとすることは得策ではありません。むしろ、開業希望者には積極的にスキルを磨けるようにした方が新たな勤務医の採用につながると考えられます」とのメッセージを発信しました。

 また、この人材不足・求人難の対処策として女性獣医師の活用は大事であるとして、「女性獣医師の数は20年前と比較して確実に増えていますが、開業者となると、むしろ減少しています。
ここから言えることは、女性勤務医は間違いなく増えていることです。女性勤務医の長期雇用はこれからの重要な経営課題であると言えます」とのメッセージを発信しています。

5.まとめ

 メディカルプラザからのこうしたメッセージを受け止めてくださる院長が多いのは、これまで事業承継で培ってきた院長との信頼関係があるからです。

 メディカルプラザの人材紹介業 ベテリナリオは、これからの動物病院の二極化に対応できる繁盛病院を転職したい勤務医にご紹介していくとともに、女性勤務医の長期雇用についても院長への啓蒙を行い、現場を離れている女性勤務医の復帰、復職などについても積極的に取り組んでいかなければならないことと考えております。