【勤務医必読 知っているか知らないかで将来に明暗 3】改正動愛法施行を犬籍登録のJKCはどう捉えているのか
14.【勤務医必読 知っているか知らないかで将来に明暗 3】改正動愛法施行を犬籍登録のJKCはどう捉えているのか
この改正動愛法施行がペット業界、動物病院業界にどんなダメージをもたらせるのかについて、2度にわたり、犬猫適正飼養推進協議会・石山恒会長にお話を伺いました。
この改正によって、ブリーダーの数が減少し始めても、動物病院業界やペットフード業界は「川下産業」に当たるため、すぐにダメージがやってくるわけではありません。そのため、動物病院業界では若い獣医師ほど、大きなダメージを受けてしまうことになります。
このダメージが真っ先にやってくるのは、「川上産業」である、繁殖ブリーダーとJKC・一般社団法人ジャパンケネルクラブです。
そこでJKCにこの法改正をどのように捉えておられるのかについての特別インタビューを行いました。
《特別インタビュー》 吉田稔(一般社団法人ジャパンケネルクラブ 副理事長) × 西川芳彦 (承継開業コンサルタント、(株)メディカルプラザ代表)
●犬の少子化を知る根拠は、JKCの犬籍登録数
西川:私は元々は新規開業支援のコンサルタントでしたが、2010年にこの事業承継コンサルタントに完全移行したのは、JKCの犬籍登録数が2003年に減少に転じたことを知ったからです。それ以降、本誌でも「犬の少子化による動物病院経営の二極化」を予測して警告してきましたが、現在ではその通りになってしまったと考えています。
この「少子化」について、ヒトは出生届でその推移がわかりますが、犬の少子化はJKCの犬籍登録数の推移を根拠にしてきました。
西川:JKCの犬籍登録数は2003年の58.7万頭をピークにして、現在では半分くらいにまで減少してきています。この減少傾向は今回の改正動物愛護法の施行によってさらに加速度がついていくものと予測していますが、これからの動向についてはどのようにみておられますか。
吉田:2003年の犬籍登録数がピーク時の1年前に動物愛護法の第2次改正があり、それ以降、ずっと減少傾向にありましたが、2020年は増加に転じました。
この増加は、「コロナ禍でのステイホームの影響によるもの」と分析しています。いわば、「バブル現象」のようなもので、家庭内での癒やしを求めてペットを飼い始めた人が一時的に増えたものとみています。
ゆえに、新型コロナ収束後は再び減少傾向に戻ってしまうのではないかと考えています。その時期と2021年6月から施行された改正動物愛護管理法の数値基準がブリーダーに影響を与える時期と重なる可能性が高いとみていまして、ダブルパンチで登録数の減少に拍車がかかり、かなり厳しい時代がやってくることは覚悟しています。
●この改正法施行で、真面目なブリーダーほど、先にやめてしまうとの懸念
吉田:犬籍登録数がピークの2003年の1年前に第2次法改正があり、動物取扱業者は届出制から登録制に変わりました。この時には小規模のいわゆるホビーブリーダーは事業をやめ、大規模ブリーダーがその減少分をカバーしたと推測されます。そして今回の第4回目の法改正に基づき、かなり厳しい数値基準が適用されることになります。
JKCも参加している犬猫適正飼養推進協議会(石山恒会長)では、「犬の繁殖業者が3割以上も廃業を検討、13万頭以上の犬猫が行き場を失う」と、事業者へのアンケート調査から警告を発しています。
西川:犬の平均単価がこの10年間で3倍近くになったと言われています。これだけ犬の価格が暴騰しているのは、ニーズに対して供給が追いついていないことが一番の理由だと考えられます。
今でさえも犬の頭数が足りないのに、法律改正でブリーダーを減らすような施策を続けていけば、飼いたいと思っている多くの国民の思いに逆行するような政策を政府は進めていることになります。
飼いたい人が多くいるのに犬の頭数が足りないという状況に対して、何らかの対策はできないのでしょうか。
西川:ペットフード業界もこの改正法の緩和やペット業界の実態を見据えた上での運用をして欲しいとの声をあげられています。
吉田:法律として決まった以上、それをひっくり返すのは難しいでしょう。
西川:法改正は終わりましたが、運用についてはこれからなのではないのでしょうか。
吉田: この運用については、運用指針が出ていまして、「行政指導、行政処分から刑事告発までの考え方や手順」まで書かれています。
なかなか厳しい運用がなされていくのではないかと考えられます。
さらにこの基準を検討する際にも、「レッドカードを出せる基準を作る」とされており、登録取消という厳しい処分まで想定してこの法改正が進められたことになります。
西川:この改正法が実際に運用され始めると、どうなるのでしょうか。
吉田:一番懸念されるのは、この基準をしっかりと守ろうと真面目に考えるブリーダーほど、「これはダメだ」となって事業をやめてしまうことです。
一方で、ずる賢くやるブリーダーは、ごまかしながらでもいよいよダメになるところまで事業を続けていくでしょう。実態を踏まえない規制強化の問題点です。
吉田:JKCには、①犬の犬種改良、②純粋犬種の維持、③優良犬の飼育奨励、④動物愛護精神の高揚という目的があります。この目的を担って頂いている中核ブリーダーがやめてしまわないようにできる限りのサポートをしていきたいと考えています。
また、多くの方々が「犬を飼いたい」と思って頂けるような取り組み、例えば、海外ではペットを飼うことで病気の予後の回復が良いといった調査データがあります。ペットを飼うことで国の医療費が減るとの試算もあります。
これらを紹介して、ペットを飼うことのメリットを広くアピールしていくことも大事であると考えています。
西川:この改正法施行でブリーダーが大きなダメージを受けてしまうことについての危機意識を持っている動物病院院長はまだまだ少ないと思います。
本日は動物病院業界のこれからを知る上での貴重な情報を頂きまして、有難うございます。
※犬籍登録頭数のデータは、ジャパンケネルクラブのこちらをご参照下さい。
→ https://www.jkc.or.jp/archives/enrollment
参考データ ▶︎環境省自然環境局 「動物愛護管理法の概要」https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/outline.html
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