ある動物病院での話~現役女性看護師の貴重なホンネ~
女性獣医師の本音トーク その16(特別編 / 現役女性看護師)
そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
それは、女性獣医師の存在です。
メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生がご執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。
【編集部・注】
ベテリナリオでは、女性獣医師に勤務状況や給与、現役継続・復職のための条件、院長への提言などを募集していますが、現役女性看護師が経験談を記した記事をお送り頂きましたので、特別編として掲載します。
数字に厳しいからこそきちんと実績を評価する女性院長 ~ 看護師の私が獣医師とスタッフ間の人間関係での調整役に ~
東日本にある、とある動物病院での話
院長が専門学校の外部講師をしていたことが出会いのきっかけだった。
生徒の半分は就職先が見つかる中で、私は自己主張が強く物事をはっきり言いすぎるせいか男性獣医師から好かれず、ことごとく就職希望先からやんわり断られていた。
教室のベンチで落ち込んでいる時、その動物病院の院長が声をかけてくれた。
うちの専門学校では、実習を1週間やり、その後内定がもらえる。
実習の時点である程度自分が就職したいと思うところを候補に出し、病院側も採用したいかどうか、双方の意見を聞きつつ、内定が決まる。
ほとんどの生徒は1度目の実習で決まっていたのに、私は2社断られ、実習先の相談をする先生から『性格を変えないと就職決まらないよ』とまで言われていた。
間違っていることは間違っていると言ってしまうのが、それほどダメなのか…。全部イエスで答える可愛らしい女性を、男性獣医師は求めているのか…。
この時期に人生で初めて性格を否定されたことは、今でも鮮明に覚えている。そして唯一、専門時代で悔し涙を流したことも。
そんなことを思っている時に声をかけてくれた、その動物病院の院長。
院長は、私の母親世代のしっかり物事を言う女性で、涙目の私に『いつも元気なのにどうしたの?』と声をかけてくれた。詳細を言うと、『あなたみたいな人、うちの病院なら合うと思うよ!実習おいで!』と言われ、即実習に向かった。
通常一週間の実習後に内定だが、実習の3日目に院長室に呼ばれ、『私は来て欲しいけど、あなたは?』と言われた。すぐに、お世話になります、よろしくお願いしますと言って、内定が決まった。
院長が女性であるということもあり、獣医師が4人いるなか、1人が男性、他は女性。受付もトリマーも看護師も、全員女性の職場だった。唯一の男性獣医師も、物腰柔らかで、優しい先生だった。
だからと言って、病院の雰囲気がふわふわしているわけではなく、経営コンサルタントをつけていたこともあり、数字には厳しい。目標を決めて、毎月1回、経営コンサルタントの人を交えてのミーティングを行なっていた。
動物病院ではあるが、お金を払うのは患者ではなく、飼い主。だからこそ、飼い主が喜ぶ企画も考え、実施した。
毎月新聞を発行、手書きのハガキ、しっかり予防した方には、特別なメンバーカードの作成。ご近所の方々に日々の感謝を伝えるために、お祭りを開催。地域の子どもにも楽しんでもらって、はじめての勤務先がその動物病院でよかったと本当に思う。
看護師として人間関係を円滑にすることに注力した
10年長く勤めていた看護師は、私と私の同期が入り、先輩の意に反して私たちがリーダーシップを持って行動したのがきっかけか、退職。
後輩に少し厳しすぎる先輩だった。飼い主様を喜ばせる企画を考えて、ポスターや資料を作成したところで全否定。否定するなら最初から先輩がやればいいじゃないかと、皆思っていた。
後輩の頑張りを素直に誉めない人だったので、その先輩がやめた後は私たちが中心となって病院を回すようになった。すると、また院内の雰囲気も良くなったよと当時のスタッフに言われた。
抱える患者の数も多く、毎日の診察はもちろん定期的に行っていた健診企画もあったため、忙しい日々を過ごしていた。
私の記憶の中で私が一番労力を使ったのは、なんと言ってもスタッフの関係性を整えること。
獣医師たちが考えている時、何もしていないと勘違いしたトリマーが声をかけてしまい、「今考えてるんだから!もーーーっ!」と、院長が怒ることが多々あった。そんな時は看護師の私がトリマーと院長の間に入って、「獣医師さんたちは治療方針などを真剣に考えているんだよ」と伝えることもありました。
逆にトリマーがイライラするタイミングを獣医師たちに伝えたり、受付が混んでいる時に裏で動くべき行動を伝えたり、トリマーに院内の現状を伝えたり。
そこに一番力を注いでいた気がする。
どんな職場でも、やることは同じでも辞める人もいれば辞めない人もいる。
それは、やはり人間関係が原因だと思っていたので、そこに力をかけていた。おかげで、21歳からストレス性の逆流性食道炎持ちになってしまった。ストレスがかかりすぎると、胸が痛い。身を削ってまで頑張れたのは、スタッフが好きだったから。だから、今でも仲がいい。
私が勤務している間に、採用する人材も少し変わった気がする。
フルタイムの獣医ではなくママさん獣医師も採用。リーダーとして動いていたトリマーも一度産休に入ったが、産後、出られる範囲で受付を担当しつつ時短でトリマーとしても現在活躍していると聞いている。
その動物病院は、ずっと前から女性が働きやすい環境を作っていた。だからこそ、今も病院が患者に愛され継続できているのだと思う。
現在、その動物病院は、企業病院に吸収され、経営コンサルタントも独自でつけるのではなく、その企業病院とやり取りしていると院長が言っていた。
なぜ企業病院に売却したのか。跡取りはいなかったのか。それはきっと、実際に継ぐ人がいないから、その企業病院に売るしか病院を残せる手段がなかったのであろう。
現在でもその動物病院を辞めたメンバーや院長とは交流がある。近々お会いして、色々と質問してみたいものだ。
【追記 コンサル・西川からのコメント】
この記事は、看護師目線で書かれたもので、貴重な情報であると思います。
ここで紹介されている動物病院は、女性院長で女性看護師も評価する病院であると言えます。
具体的にどんな内容の動物病院だったのか、追加取材をお願いしました。
※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。
この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。
これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。