1. トップページ > 
  2. 転職役立ちコラム > 
  3. タイで開業した女性院長へのインタビュー~タイは全て合理的~

タイで開業した女性院長へのインタビュー~タイは全て合理的~

女性獣医師,復職,動物病院,海外事情,タイ,女性の社会進出

女性獣医師の本音トーク その52(Special Edition 海外事情・タイ編)

2022年1月、メディカルプラザの人材紹介事業ベテリナリオは、現在の人材採用難をどうすれば改善の方向に向けさせられるのかを考え始めました。
 そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
 それは、女性獣医師の存在です。
 メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
 しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
 そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
 ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生がご執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。

【編集部・注】


ベテリナリオでは、女性獣医師に勤務状況や給与、現役継続・復職のための条件、院長への提言などを募集しています。


以前に日本で子育てしながら院長を続けていくのは難しいと判断して、タイで開業された女性院長、塩谷院長をご取材頂いたタイ在住の女性獣医師から、タイ女性の社会進出についてのレポート記事が送られてきましたので、特別編として掲載します。

タイ女性の社会進出の高さとその背景

 
タイ在住・女性獣医師
女性獣医師,復職,動物病院,海外事情,タイ,女性の社会進出

日本とは大きく異なる、女性を取り巻く環境

 タイは女性の社会進出が進んでいる国です。結婚後も女性が働くのは一般的ですし、女性管理職の割合が多い国(注1)です。もちろん、タイにも男女格差はありますが、日本と比較すると、体感としても数値(注2)としてもその格差は小さいです。

 タイ女性の社会進出が進んでいる理由は様々ですが、タイ女性の家事育児の負担に注目すると、日本女性と比較してかなり小さく、この点が社会進出を後押ししていると考えられます。

 

 

 タイ社会において女性を取り巻く環境は、日本とは下記の点で大きく異なります。

 

 1.タイではメイドを雇うことが普通である。

 2.タイの子育ては、両親など周囲を頼ることが普通である。

 3.タイでは食事は外で食べるか買うものである。

 4.上記1~3のような文化的背景から、タイでは「家事育児は女性の役割」という風潮が少ない。

 

 

 まず、1のメイド事情に関してですが、ある程度の収入があれば当たり前にメイドを雇い、家事育児を任せます。(なお、この文章では、家事及び子守をビジネスとして担う人を全てメイドと総称させていただきます)。

 メイドは、掃除、洗濯などの家事だけなら月に1,000バーツ程度、つまり数千円(注3)で雇うことができます。子守も頼む場合、金額は千差万別なので、下記にメイド求人欄で見かけた一例を示します。

 

 例1:家事と子守、13:00~18:00で週5日勤務→1,1000バーツ/月(約41,800円/月)

 例2:家事と子守、フルタイムで週5日勤務→1,5000バーツ/月(約5,7000円/月)

 

 子守も含めると、それなりの金額にはなりますが、それほど難しい出費でもありません。日本と比較しても、無認可保育園の平均費用が50,000円~70,000円と言われているので、利用しやすい金額だと言えます。

 

 

 

【追記  コンサル西川からの匿名女性獣医師への質問】

コンサル西川:メイドを雇う以外に、タイにも保育園や幼稚園はありますか。

 

匿名女性獣医師:もちろん保育園や幼稚園もあり、通わせている人も多いです。保育園や幼稚園への送り迎えも必要に応じてメイドさんにやってもらい、また、自分の両親にやってもらう人もいます。日本の場合、送り迎えが夫婦の負担になるので、メイドさんにお願いできる点は日本とは違う点です。

 

コンサル西川:だから、フルタイムで働くことができる。フルタイムは何時から何時までですか。

 

匿名女性獣医師:だいたいですが、9:00~18:00くらいです。会社によっては、8:00~17:00や、8:30~17:30など、違いはありますが基本は日本と同じです。

 

コンサル西川::8時間勤務+1時間休憩といった勤務でしょうか。

 

匿名女性獣医師:はい。一般的な会社では同じです。

 

コンサル西川:夫婦がフルタイムで働く場合、メイドさんもフルタイムで雇いますよね。ただ、タイのフルタイムがだいたい9時出勤という場合、メイドさんも9時くらいからの勤務だとすると、夫婦の出勤時間に間に合わない場合もあると思います。どうするのですか?

 

匿名女性獣医師:タイではメイドさんを雇う時に個人契約が可能なので、契約次第で時間の融通がきくのです。ただ個人契約の場合、メイドさんの能力や性格などに個人差があるので、依頼に失敗したというケースもあります。

そういった失敗を防ぐために、メイドさんの派遣会社を利用するという手もあります。会社を介すと料金は高くなりますが、メイドさんの質は保証されます。

 

タイの子育て事情について

 次に、上記2のタイの子育て事情ですが、日本と全く考え方が異なります。

 日本では、子育ての主体は両親のみですが、タイでは周囲の大人全員が主体です。ですので、メイドを雇うことのできない家庭でも、両親や親族に子供を預けることができます。地方の両親に子供を育ててもらい、自分たちはバンコクで働くというパターンも多いです。

 タイでは、産まれてからずっと両親の元で育つ子供というのは、それほど一般的ではありません。

 

 

 そして、3の食事事情ですが、タイは外食文化が非常に発展していて、安いです。

 自炊は割高になるため、健康に気を遣う人などごく一部の人しか毎日料理をしません。

 この食事事情は、家の間取りに大きく映し出されており、そもそも家賃の安い家にはキッチンがなく、高級な家でもキッチンは日本の感覚からすると、驚くほど小さいです。さらに、フードデリバリーも、日本よりはるかに利用しやすい金額です。

 日本では注文できる金額の下限があり配送料が高い傾向がありますが、タイでは80バーツの麺1つでも届けてくれますし、送料も20バーツ程度で誰でも気軽に利用できます。

 タイでは昔から、料理好きの家が、自分の家でたくさん作ったものを近所に売るというような文化があったそうで、その延長として、フードデリバリーサービスがすぐに成熟したそうです。

 

 

 最後に4ですが、日本では、女性は家事育児を100%完璧にこなした場合のみ、外で働くという”権利”を得られるような風潮があります。家事育児が女性の「本来の」役割なので、外に頼って働こうとすれば、女性が本来やるべき事を放棄している、と社会から非難されるでしょう。

 一方、タイでは上記で述べて来た背景により「家事育児は女性の役割」という風潮が少ないため、女性も望めば仕事にまい進することができます。

 なお、タイの男性は、自分の妻の学歴や収入が自分より高い場合、それをとても誇らしげに周囲に自慢する事が多く、このあたりも日本とは大きく異なる点だと感じます。

 

 私自身は、タイのすべてが日本よりも良いとは思いません。しかし、少なくとも、働く女性にとって、現在の日本は息苦しい事が多いです。そのような女性にとっては、タイは日本よりずっと住み心地の良い国であると言えます。

 

 

 注1:太陽グラントソントンが29ヵ国を対象として、中堅企業の女性管理職割合を調査した結果(2021年10月~12月実施)では、タイの女性管理職の割合は38%で世界第6位です。この調査では、日本は女性管理職の割合が15%で、世界第29位=最下位です。こうしたランキングは調査によって数値は違いますが、タイが上位で、日本が最下位なのは概ね同じです。

 注2:世界経済フォーラムが2019年に報告した、世界153ヵ国の男女格差度合いを調べた調査において、タイは75位で真ん中くらい、日本は121位でかなり下位です。

 注3:現在、1バーツが約3.8円程度です。1000バーツは約3,800円です。

 

 

 

【追記  匿名女性獣医師へのコメント】

 タイに来て思うのは、タイは全てにおいて合理的であるという点です。

 あらゆることを金銭が伴うビジネスにすることができますし、金銭で解決することに対する社会的な批判もありません。日本では母親がスーパーのお惣菜を食卓に出すと批判される風潮がありますが、タイでは「食事は母親の手作りが一番」というような考えはなく、食事は食事を作ることをビジネスにしている人に任せて良いのです

 子育てについても、子供は社会のみんなで育てて、その子が大きくなって自立して稼いでくれるようになればいいといった考え方があります。

 タイと比べれば、合理的であるという点においては、日本は真逆のように感じてしまいます。

女性獣医師,復職,動物病院,海外事情,タイ,女性の社会進出

 ※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。

 この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。

 これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。