女性パート獣医師の働きやすさは院長先生次第
女性獣医師の本音トーク その5(①働く現場の生の声+②院長への提言)
そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
それは、女性獣医師の存在です。
メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
そこで、ベテリナリオ が独自に調査することにしました。
ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生がご執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。
細々とでも獣医師を続けることが大事。私は、公務員に復職することを選びました。
コンサル西川:この動物病院業界では、ブラックな働き方である点、労働基準法が守られていない点、社会保障に入っていない点、退職金がない点など、他業界からみると「異常」であっても、それが「普通」のように捉えられてきました。
しかし、こうした厳しい労働環境から、男性獣医師は老後のことを考えて開業し、女性獣医師は出産や育児を契機として離職することで、勤務医不足が深刻な事態になってきています。
ベテリナリオ では、女性獣医師の継続勤務や復職を目指すことがこの勤務医不足の解決に役立つのではないかと考えています。
そこで、女性獣医師の労働環境がどうなっているのかについての本音をお伺いし、情報公開していくことで、院長の意識を変えるための啓蒙活動をしています。
今回は、ご協力頂きまして、有難うございます。まずは簡単にご経歴をお聞かせ下さい。
匿名先生:大学の研究室が基礎系ということもあり、最初は公務員になりました。
しかし、小動物臨床に興味があったので、短期間ではありますが、週末だけ動物病院で勉強させてもらっていました。しかし、結婚の時期と重なり、仕事と家庭の両立は難しいと判断して、公務員も辞めて、主婦になりました。
何かしたいと思っていた矢先、大学の先生の紹介で、専門学校で講師として働くことになりました。子育て中には時間の融通も効くということもあり、長く勤務させてもらいました。
臨床への気持ちは細々と持ち続けていました。あることをきっかけに40歳になってから週2~3日を動物病院でパート勤務医として、残りは専門学校の講師としてという形で仕事をするようになりました。
コンサル西川:40歳でパート勤務で臨床医になられたのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
匿名先生:私が30代の時、専門学校で出会った先生がきっかけです。
その先生は40歳から臨床医になられた先生で、子育てをしながら臨床もし、専門学校でも講師をされていました。その先生との出会いによって、私の臨床への思いはいつまでも諦めずに持っていてもいいと思えたのです。その思いが叶って、私も40歳になってから動物病院のパートの形で働くことになりました。
しかし、家庭の都合もあり、その動物病院には長くは勤務できませんでした。ただ小動物に関わる仕事を続けたかったので、専門学校の講師は続けながら、ペットショップ内にあるワクチン専門病院に土日の勤務で行ったりしました。
そんな時に公務員時代の先輩の紹介で、行政獣医師の現場を手伝わせていただく機会をいただき、若い時には感じなかった行政獣医師の重要性を感じ、再度チャレンジをし、この4月から公務員に戻ることとなりました。
コンサル西川:動物病院での仕事と家庭との両立が無理だと思われたのは、どんな理由があったのでしょうか。
匿名先生:勤務時間が大きい理由だと思います。動物病院は、診療時間が19時までが多く、患者さん次第でその時間を過ぎることもあります。それから帰って、家のことを考えると、私は、両立を諦めるしかありませんでした。
コンサル西川:先生は最初の就職先が公務員なので、動物病院勤務の厳しさに大きなギャップを感じられたのではないでしょうか。他の多くの女性獣医師に話を伺うと、「先輩獣医師や看護師からの無言・有言の圧力があるので、パート勤務の時間通りには帰れない」と仰る先生が多いのですが、その動物病院はどうだったのでしょうか。
匿名先生:その動物病院は、パート勤務医に対して、とても優しい病院だったと思います。私の場合、自宅と病院との距離がかなりあり、車での通勤でした。朝の渋滞等で診療時間に間に合わないこともありましたが、それでも院長先生は「遅れてもいいから」と配慮して下さいました。また帰宅も、周りの先生方が「早く帰りなさい」と言ってくれたり、看護師さんも嫌な顔をする人は居ませんでした。
また技術的な面においても、私は前職が公務員だったので、臨床経験はほぼ皆無だったわけですが、院長先生や他の勤務医の補助をさせていただくことで学べる機会を作ってくれたり、徐々に臨床スキルを磨いていくことができるように配慮してくださいました。
私の経験からすれば、女性パート獣医師の働きやすさは、やはり院長先生次第で決まるのではないかと思います。
好きなことができるからと激務、低給与で頑張る
コンサル西川:他業界からすると、動物病院業界で働く獣医師の給与は当然高いものだとのイメージがありますが、業界内の獣医師に実際の話を伺うと、「低給与」であることにびっくりしてしまいます。時給にすると、1500円が獣医師の平均だというので、他のアルバイトでもこの金額を出している職種は沢山ありますから、この低給与が女性獣医師が病院を辞めた人も動物病院には戻らない原因の1つになっているものと考えています。
先生がパート勤務医だった頃の時給はどれくらいだったのでしょうか。
匿名先生:やはり私も、時給は平均くらいでしたが、特に低給与とは思っていませんでした。勉強させてもらっているとの意識の方が強かったです。
獣医師は働きながら勉強をさせて頂いているという意識があるので、あまり給与を気にしないで勤務する動物病院を決める人が多数だと思います。就活においても、一番大事なポイントは、「獣医師という仕事が好きだ」ということで、入った動物病院が多少勤務が厳しくても、低給与であっても、好きなことをしていることがモチベーションとなって、仕事が続けられるのではないでしょうか。
ところが、結婚・出産など、夫や子供といった自分以外の事情が出てきた時に、これまでは平気だった厳しさや事情と天秤にかけた時に金銭面との比重をネックに感じてしまい、辞めてしまう原因になるのではないかと思います。
細々とでも仕事を続けることが復職へとつながる
コンサル西川:先生は公務員から専門学校の講師、パート勤務医へと何度も転職されていますが、先生のご経験から、どうすれば女性獣医師が勤務を続けられたり、復帰したりできるのかのアドバイスをお願いします。
匿名先生: 第一には、勤務時間の配慮です。
短時間であっても働かせてもらえるような働き方の配慮を病院側にして頂ければ、女性獣医師も育児などの家庭の事情に合わせた勤務を選択できるようになるのではないかと思います。例えば、午前中だけでいいとか、午後だけでいいとか。9時から17時までの勤務ではなく、もっと小分けの時短勤務ができるようになれば、勤務医をそのまま続けることもできるのでしょうし、育児中でも働きやすくなるのだろうと思います。
コンサル西川:一般企業からすると、9時17時は時短勤務ではなく、フルタイムの勤務です。これもこの動物病院業界の非常識の1つと言えるのでしょう。
先生のご意見のように、ベテリナリオ ももっと勤務時間の選択肢が増えれば、女性獣医師が育児をしながらの現役続行や復職につながるものと確信しています。
1つの例として、コロナ禍の影響もあって、患者さんの「密」を避けるために「予約診療制」を導入する動物病院が増えています。多くの病院が昼の休診時間に手術をしていますが、その時間帯を予約制にして、パートの女性獣医師が専門に外来患者を診るような仕組みができれば、そこに時短で働きたい女性獣医師の活躍の場ができると考えています。
匿名先生:確かにそうですね。
コンサル西川:こんな動物病院をどんどん増やしていくことが女性獣医師の働きやすさにつながり、そして業界全体の勤務医不足の解決の一役を担うことができると考えています。
この時短勤務の他に改善点はありますか。
匿名先生:男性、女性で分けるべきではないと思いますが、飼い主さんの中には男性獣医師がいいという方もいる一方、女性獣医師の方が話しやすいのでいいという方もいます。
女性獣医師が勤務することで、女性に診て欲しい飼い主さんが来院してくれる可能性もあるかと思います。
また、毎日出勤していないと、以前担当した子がどうなったかが気になり、モヤモヤするということがあります。そのモヤモヤはストレスになります。それについては少しずつ慣れていくしかないのですが、時間を見つけてカルテの確認や診察を引き継いでくれた先生に聞くことで多少解消されていくと思います。
また女性獣医師に対してですが、育児などでスパッと辞めてしまうと、辞めた期間がブランクとなって戻りづらくなってしまいますので、なるべくならば、細々とでもこの獣医師の仕事を何らかの形で続けていくことが大切だと思います。
獣医師という仕事のいいところは、体力の限界が来るところまで働き続けられることです。私は死ぬまでこの仕事を続けたいと思っています。自分に合った形で、その時の自分にできる仕事を常に模索していきたいと考えています。私は、色々経験させてもらったからこそ、獣医師として、次に何がしたいかが見えてきた気がします。結果、私は行政獣医師を選択しましたが、退職したら、ボランティアの形で動物に関わった仕事(活動)をしていきたいと考えています。
コンサル西川:生涯現役として退職してもボランティアとして働きたいという先生の話を聞いて、私もできるのではと考えて下さる女性獣医師がもっともっと増えてくれればと思いました。
本日は有難うございます。
※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。
この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。
これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。