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【提言】臨床現場はどのような改善が必要なのか?

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女性獣医師の本音トーク その7(①働く現場の生の声+②院長への提言)

 2022年1月、メディカルプラザの人材紹介事業ベテリナリオは、現在の人材採用難をどうすれば改善の方向に向けさせられるのかを考え始めました。
 そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
 それは、女性獣医師の存在です。
 メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
 しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
 そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
 ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生がご執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。

動物病院で女性獣医師が働きにくい原因について

匿名女性勤務医

 女性は男性に比べて体力や力がないにもかかわらず、動物病院では看護師は8~9割が女性、獣医師も半数程度が女性という現状があり、性別問わず同じ業務が強いられる。具体的には以下のような事例がある。

 

その① ~ 長時間労働 ~

 動物病院の勤務時間は長い。開院時間は9~12時、16~19時と午前午後の二部制になっている病院が多く、昼休みがとても長いように思われがちだが実は違う。昼休みの間に手術や重症で預かり検査をしている動物の処置や検査を行うのだ。

 

 また、昼休みの間も休患であれば対応するため、日によっては昼休みが取れないこともある。入院動物が多い病院では、飼い主に状況を連絡することや、動物の処置をする時間にも充てられる。そのため、雇用条件上は獣医師の勤務時間は9~12時、16~19時とし勤務時間を短く見せている悪質な病院もあるが、実際は9~19時まで休みなしの10時間労働なのだ。

 

 その点、昼休みとしての休診の時間をとらず、終日開けていて獣医師が交代で休憩をとっている病院の方が働きやすいと私は考えている。

 

 

 長時間労働の原因は残業時間にもある。閉院が19時までの動物病院が多いのだが、人の病院のように最終受付時間が決まっていない動物病院が多い。たいていの飼い主は18時頃まで仕事をして、帰宅後に具合が悪くなった動物を見つけて閉院間際の駆け込みで来院されることが多いのだ。

 

 駆け込みで来る動物ほど緊急性が高い病気や症状であることが多いので、19時から検査、場合によっては手術を行い、21時を過ぎることも珍しくはない。その後カルテ記入等の事務仕事や症例について分からなかった場合は勉強もしないといけない。

 また、朝は開院前に入院動物の投薬や検査等の処置を行い、開院前に鳴り響く電話の対応も行わないといけないのだ。

 

 

 この事態の改善に必要なのは、早番・遅番制度の導入とスタッフの増員と考える。早番・遅番制度については、導入されている病院もあるが、遅番の獣医師は日が変わってしまうほどの深夜までかかってしまうという話も聞く。そのため、早番・中番・遅番の3交代制にして、遅番が深夜勤務になったとしても翌日の勤務に影響を与えないようなシステムを作るべきだと考える。

 

 また、開院時間についても、10時から、もしくは18時の開院時間を少し短く設定するのも改善案と考える。スタッフの増員については、看護師が多くいてくれることがありがたい。特に女性の看護師が多いので、男性の看護師がいてくれると大型犬の保定や往診の付き添い等で心強い。また、看護師に嫌がらせを受けて早々に辞めてしまう若手獣医師が多いのも現状である。

 その点でも、男性看護師の方が女性獣医師と良好な関係を築きやすいと考える。

 

 獣医師の増員については、診察に出ない裏方のみの獣医師を採用することも有効ではないかと考える。動物病院に多い電話の内容が、「このような症状なのだが受診した方が良いか?」というものである。このような獣医学的知識の必要な内容の電話対応を看護師が行うことは困難であり、獣医師の対応が強いられるが診察の合間に行うのは正直手間である。

 

 入院動物や預かり検査・処置の動物の検査を進めたり、投薬を行ってくれる獣医師が裏方にいるだけでかなり業務が分担できると考える。

 また、診察が無い裏方獣医師は定時で帰りやすいポジションであるので、主婦などの時間の制限がある女性でも働きやすいと考える。

 

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その② ~ 給与面の改善 ~

 動物病院勤務の獣医師の給料は、世間が思っているほど多くは無い。

 

 もちろん世間の平均よりはもらえるが固定残業制度の病院が多く、働いた分だけ残業代がもらえるというシステムが整っていないため、時給換算するとマクドナルドと変わらないと言っている獣医師もいる。

 

 そもそも、何が起こるか分からない医療現場で働く以上は何時に帰れるか分からないこともある程度は仕方ないと思う。しかし、前述のような深夜にまで及ぶ重労働であるので、働いた分は対価として支払うのは必要なことと考える。

 

 

 また、給与面の不満は開業とともに辞めていく獣医師を減らすことにも繋がると考える。

 

 親からの動物病院を継ぐのではなく、新規開業する獣医師の開業理由には収入を上げるためも含まれると考える。もちろん開業資金も莫大なので、一種のギャンブル要素もあるため、開業以上に良い待遇であれば勤務医を続けようと考える獣医師も増えると考える。また、動物病院で働くにはどうしても、近くに住まないと体力的にきついため、近くに住めるように家賃補助をだしたり、寮を作ったりと福利厚生をよくするべきと考える。

 

 ボーナスについても、動物病院では1か月分×年2回が基本であるので大手企業の会社員のようなボーナスをもらえる喜びは無い。他の病院との差別化を図る意味でも、勤務時間の改善だけでなく金銭面の待遇アップでスタッフが離れていかない職場づくりにつながると考える。

 

 

 

【追記  コンサル・西川からのコメント】

 

 動物病院業界は、同じ国家資格を持つ職業の中では、開業が資格を活かす道である点等において歯科医師業界と近いと言われますが、大きく異なる点があるとすれば、帰宅時間でしょう。歯科医師は診療を終えて20時には家に居ることができるでしょうから、動物病院業界の長時間労働は、医療に関わる資格者の中では群を抜いています。

 

 その長時間労働になる原因は、匿名勤務医先生がご指摘している通り、飼い主が勤めから帰って具合が悪いのを発見して連れてくるため、診療時間の終わりギリギリに駆け込んでくる人が多いからです。

 

 ただし、最近では多くの院長の努力の結果、長時間労働はかなり改善されて来ています。

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メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。

 この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。

 これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。