ママ獣医師から動物病院院長先生へメッセージ
女性獣医師の本音トーク その18 Part2(①働く現場の生の声+②院長への提言)
そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
それは、女性獣医師の存在です。
メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生がご執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。
《シリーズ企画 臨床現場復帰までの軌跡 その2》~N女性獣医師のコーチングを活かしたリアルルポ 後編~
【編集部:注】
前回はY女性獣医師の新卒から現在に至るまでのインタビューを紹介いたしました。後編では、このY女性獣医師から動物病院の院長に向けたメッセージ、そしてコンサル西川とN女性獣医師の対談を掲載します。
【ケース 2】 Y女性獣医師(40代)
新卒で企業にて新薬開発のための動物実験などを担当。主婦をしながら企業内でプロジェクト開発なども担当し、3人の出産、子育て中に動物病院を訪問し、実習を経て、この春から動物病院でパート勤務をする予定。
【動物病院の院長にメッセージ】
Q:院長先生にメッセージがあればお願いします。
「キャリアも育児も両立したい女性が増えています。しかし、現場で育児中の女性は、“やりたいけどできない。だから、やめておこう”と自分の中でブレーキをかけがちです。やりたいことを言えずに遠慮してしまいます。
ここへの対処法として、院長先生が“やりたい”気持ちを聞き出し、“できない”を一緒に因数分解して、“できる”形に近づけることができれば、お互いにwin-winな関係を築けると私は信じています。
女性獣医師の気持ちを聞く時間をとってみてください。
相互理解を深めて、その病院らしさと、その人らしさを掛け合わせて、それぞれに合う理想形を描いて頂きたいです。それは病院ごと、その人ごとに違います。さらに、一度描いて終わりではありません。子供も病院も成長していきます。
それに伴って、理想形も変わっていきます。子育ての状況や悩みを共有できる場、病院の状況を知れる場があると、私は、病院の価値を最大化するためにできることを考えやすくなります。
院長先生も、女性獣医師へお願いできる部分や頼れる部分が見えやすくなるはずです。
私にとって、頼ってもらえることは、喜びになると共に、頼りやすさにもつながります。保育園からの呼び出しなどの際に、周囲へ頼みやすくなるのです。そうして、頼り頼られ、感謝の循環が生まれると、その職場にもっといたくなります。みんな、職場のために自分ができることを探しています。」
【さいごに・コンサル西川との対談】
今回は、新卒で製薬企業に就職し、育休後に小動物臨床へ戻られたY先生へのインタビューでした。
インタビューを通して筆者が感じたのは、小動物臨床だけではできない社会経験を積まれたY先生が、今後の小動物臨床で活かせる先生オリジナルのコミュニケーション技術があることは明らかです。それだけでも1つのスキルなのではと思いました。
むしろ、業界だけの経験しかない院長やスタッフの成長や可能性を引き出す、新たなメンタースキルともなりえると思いました。
また、子供はあっという間に育っていきます。育児はずっと続くものではありませんから、お母さんが必要な時期をしっかりと愛を伝えながら過ごしていただきたいと思いました。そのために、就職された動物病院のメンバーに温かくサポートしていただき、先生の長所が生かされ良い循環になることを心より願っております。
【追記 コンサル西川からのN獣医師への質問】
コンサル西川:私はこれまでのコンサル経験からみてきて言えることは、「小動物の臨床医は最初に入った動物病院によって一生が決まってしまうので、就活でどこに決めるのかは最も重要である」という点です。
本文最初の部分で、Y先生は学生時代の実習で行った動物病院に「違和感を覚えました」とありますが、Y先生が学生時代からこんな感性を持っていたことにビックリします。
N獣医師:Y先生は実習で行った病院の院長や他の先生から感じ取ったのは、「視野が狭いのでは」ということでした。
病院内での会話と言えば、どう治療するかといった仕事の話だけで、他の会話がなかったそうです。大学卒業後に他の社会経験が無いままにこの病院に就職をして、勤務は朝から夜遅くまでで、休日はほぼ寝て終わるといった生活を繰り返してしまうのは良くないと思われたようです。
そのため、いつかは小動物臨床に行くと思いながら、社会経験が積める企業への就職を決めたとのことです。
コンサル西川:多くの女性獣医師の経験談をお聞きしていますが、最初に入った病院の臨床現場での過酷な働き方にショックを受けられた方がたくさんおられます。その最初に入った病院の印象があまりにも悪くて、そこで臨床をあきらめて動物病院を去る方が多いのは残念です。
この臨床現場も動物病院によって様々なタイプがあります。ブラックもあれば、ホワイトを目指している病院もあるのですが、1つの病院の印象だけで全部同じなのだと捉えてしまっているように思われます。
N獣医師:新卒でまだ若いから、他の病院はどうなのだろうかとは考えないのではないでしょうか。院長が怒鳴っていたりするのを聞いて、ショックを受けてしまう。そしてこれが全てだと思ってしまって、他の病院は違うという発想が浮かばない。
私も、学生時代に2つの病院実習に行きました。最初に行った病院では看護師にすごくイジメられて、院長は人間的に良かったのですが、そこには2度と行くものかと思ってしまいました。その経験から「意地悪な看護師のいない病院に決めよう」と思ったのですが、2件目の病院では院長と代診の先生の仲が悪く、実習ではいい病院と巡り会うことはできませんでした。
結果的に新卒後に就職した病院もいいとは言えませんでしたが、私は血液検査が得意だったので、「自分の強みがあると、どこの動物病院でも受け入れてくれる」ということを学びました。
コンサル西川:このY先生のように、最初の病院でショックなご経験をされても、小動物臨床に戻って来られる先生もおられる。同じショックな経験をされて去ってしまう先生もいれば、戻ってくる先生もいるのは何が原因なのか。N先生のこの連載ルポで追及していきたいと思います。
※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。
この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。
これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。