女性獣医師が働き続けるために必要なこと
女性獣医師の本音トーク その42 Part2(②院長への提言)
そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
それは、女性獣医師の存在です。
メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生がご執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。
女性が働きやすい職場環境は、どこの病院でも作ることができる<後編>
【編集部:注】
労働環境の改善を求めて個人病院から企業病院へと人が流れている、個人病院では経営面などで現実的に難しい――そんな中でも成功している個人病院があると、前編では一例を紹介して頂きました。後編ではその「個人病院での女性サポート成功例」の続きを、そして女性獣医師が働き続けるために必要なことはなにか、語っていただきました。
○匿名女性勤務医
個人病院での女性サポート成功例(続き)
彼女は、まだ獣医師経験も浅い段階での妊娠・出産だったので、休職期間はあまり設けずに、保育園に入れるタイミングからの復職を希望していたそうです。
最初に、旦那さんが病院に通勤しやすい場所、かつ、子育てに対し手厚い自治体を中心に、あとは家賃相場などを加味して住む場所を決めて、そこから保育園探しを始めました。
たまたま枠があいて、1歳になる前から保育園に入ることができる目途が立った時点で、自宅から通勤できる範囲内の病院を自分で探したそうです。(ここで保育園が見つからなかったら、復職は1年先になっていたと思う、とも話していました)。
自宅から勤務病院に通う途中で保育園に寄るので、病院まで1時間くらいかかると保育園への送迎時間の都合が合わなくなる等、実際に働く時のことを想定し、無理なく続けられるような立地での就職先を探したそうです。
その病院は、獣医師5人・看護師6人体制で、看護師の中にはトリマー兼看護師の方もいるそうです。
院長自身も小さいお子さんがいるそうなので、育児に理解はある方だとは思いますが、とても柔軟に対応してもらえるので働きやすいと言っていましたし、なにより、院長から長く勤めてほしいと言ってもらっているそうで、その言葉もありがたいし、ずっとそこで働きたいと思う、と話していました。
他世帯の話も聞くと、夫婦で別日に公休を設定することで片親どちらかは動きやすく、面倒も見やすくしている家庭もありますし、1日は公休をかぶせて、一気に家のことを済ませたり、家族団らんの時間を確保したりしている家庭もあります。
子供の年齢や家族構成などでどの形が最適解なのかは家族によって違いますが、やはり臨機応変に対応できると、いろいろとやりやすそうです。
夫婦各々が各病院に合わせて自分達の1番やりやすい育児の形を見つけていくことももちろんですが、病院サイドがここまで柔軟にしてくれるのであれば、勤務医は長く勤めやすくなるし、スタッフ間で協力体制を敷きやすくなるので、経営面からみても決して悪くない話だと思います。
逆に、個人病院から企業病院に移ってきた獣医師は、休みや仕事時間の調整ができない・職場の理解が得られない・妊娠や子育てによって自分のポストがなくなってしまうといった理由の方が多い印象です。
受け持った患者の状態によっては病院での勤務を優先せざるを得ない場面もあるとは思いますが、それが当たり前になっていては、あまり働きやすい環境とは言えないのだと思います。
もちろん、子育て中だからといって、何でもかんでも許されると思われているとそれもそれで周囲も協力しにくいと思います。生死にかかわる重症例をひいたときや、緊急処置などでは残らざるを得ないでしょうし、各家庭でも、そのような時に柔軟な体制を取れるようにしておくべきだと思います。お互い、各々の状況の把握と歩み寄りが必要です。
女性獣医師が働き続けるために必要なこと
以上を踏まえると、職場環境に求められるのは、
・柔軟な勤務体制(特に帰宅時間の希望を通せたら嬉しい)
・公休日を各々の状況に応じて設定(病院側と獣医師側での折衷案)
・公休日以外でも休みをとりやすい制度・職場環境
・子育てに理解ある職場環境・雰囲気
・妊娠、子育て中でも獣医師としてポジションを確保できる
といった条件だと思います。
もちろん病院側の事情もありますから、すべての希望が通るわけではないので、雇われる側も譲歩する必要はあると思います。
あとは、同じ職場のスタッフが、嫌な顔1つすることなく協力的であることが大事です。まずは率先して院長や看護主任など役職のある立場の人から積極的に声掛けをしてバランスよく仕事配分ができたら、皆働きやすいと思います。
女性獣医師だから、子持ちだから仕事量が減るのではなくて、適材適所でうまく立ち回るようにできれば、周囲も快く働けるし、いざという時に協力的になれると思います。
ポジションを残しておく、というのも、病院経営側からだけ見ればなかなか難しいかもしれませんが、スタッフが残りたいと思ってくれる病院づくり、チーム体制にしておくことは就職率向上につながると思います。
女性獣医師側としても、妊娠や出産してからも獣医師が残っている職場環境の方が将来に対しても安心感が持てるし、なにかあっても大丈夫という信頼につながります。
これから先、女性獣医師の数はさらに増えるので、そのような職場環境の有無も、病院選びの際にはとても重要視されるようになると思います。
※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。
この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。
これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。