小動物臨床現場にママ獣医師が少ないのはなぜか?
女性獣医師の本音トーク その53 Part2(①働く現場の生の声+②院長への提言)
そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
それは、女性獣医師の存在です。
メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生がご執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。
ママ獣医師が小動物臨床に復職できない心理的な理由<中編>
【編集部:注】
※今回の記事は、前・中・後編の3つに分かれています。
前編では女性獣医師が臨床現場を離れ、そして復帰しない・できない原因は『男性社会が根強い日本社会で子育てとキャリアを両立するのは難しい!』という意見をお話していただきました。続編である今回はママ獣医師さんの考えるより具体的な原因を赤裸々に語っていただいています。
○匿名女性獣医師
小動物臨床現場にママ獣医師が少ないのはなぜか<①・②>
しかし、小動物臨床現場でママ獣医師を見るのは稀です。これはどうしてでしょうか?
労働条件など様々な理由があると思いますが、ここでは特に心理的な側面について、私なりに考えてみました。
①仕事上のイレギュラーが多すぎる
小動物臨床は、基本的に来院した動物の状態を見てからその後の処置が決まるため、常に臨機応変な対応が求められます。もちろんこれが獣医師の仕事の面白さではあるのですが、決まった仕事を中長期の計画でこなす仕事と比べてスケジュールが立てにくいため、すでに子供の予定でスケジュールが埋まっているママにとって、働きにくい職場と言えるでしょう。
また、自分の担当症例にイレギュラーな事態(急変やの予約の変更)があった場合、時間的制約の多いママ獣医師では対応できないことがあり、徐々に飼い主からの信頼が失われ、担当症例が持ちにくくなることもあるようです。
さらに、最大のイレギュラーである「突然来院してくる重症例」や「病態の急変」が退勤間際に起こることも。病院が一気に忙しくなるなか、肩身が狭い思いをしながら、「自分だけ先に帰れていいよね。こっちは残業確定だよ」というスタッフの白い目に耐えながら、退勤しなければいけません。
臨床経験のあるママ獣医師が臨床復帰に踏み切れない理由には、こうした事態や同僚の心情を予想できるため、そこまでのストレスを抱えてまで仕事をしたくないという気持ちがあるのではないでしょうか。
【追記 コンサル西川からの匿名女性獣医師への質問】
コンサル西川:ご指摘されている「仕事上のイレギュラーが多すぎる」ことで、ママさん勤務医は帰りづらくなってしまいます。
この解決策の1つが「予約制」だと考えていますが、この方法以外にも考えうることはありますか。
匿名女性獣医師:この原稿を書く際にネットで調べていますと、「お母さん獣医師と共に働く病院」をキャッチフレーズにしている関東にある動物病院のホームページを見つけました。
その病院では1症例に対して担当勤務医を2人置くと書いていました。これはすごくいいなと思いました。
人手が足りなくて休めない動物病院に勤めていると、その症例について分かっているのは自分だけしかいないといった事態が起きます。これでは急に休むかもしれない子育て中のママさん勤務医は働きにくくなります。
この病院のように、担当医が2人いると、自分と同じくらいその症例について理解している勤務医がいるので、気持ち的に楽になります。
コンサル西川:確かにこの2人体制は、ママさん勤務医が早く帰らなければならない事態が起きても、帰ることのハードルは下がりますね。
匿名女性獣医師:そうですね。こんな病院だとまた働きたいと思いました。
「自分がいないとこの症例については誰もわからない」という状況にならないことが、ママさん勤務医にとっては1番のメリットになると思いました。
②自分の時間がないので勉強ができない
臨床獣医師は最新の獣医療を学び続けなければいけません。これは臨床現場で働く獣医師にとって当然のことであり、常に勉強と研究に挑み続ける姿勢が理想像とされています。
しかし、小さな子供を育てているママ獣医師には、とにかく自分の時間がありません。
私は独身時代、子育て中の先輩女性が時短勤務で早く帰るのを見るたび、「家で子供とゆっくりできていいなぁ〜」と半ば妬ましく思っていました。しかし、同じママになって家に帰った後の方が忙しいことに気がつきました。
前述したように、家事・育児・仕事を全て支障なくこなすのは困難ですが、これに勉強まで加わったら絶対にパンクします。しかし、勉強しなければスキルの面で大きく遅れをとってしまうかもしれません。そうした考えから、臨床復帰に踏み切れないママ獣医師もいるのではないでしょうか。
【追記 コンサル西川からの匿名女性獣医師への質問】
コンサル西川:勉強についてですが、独身の方は休みの日とか休憩の時に勉強しているとのことですが、ママさん勤務医はどうされているのでしょうか。
匿名女性獣医師:そうですね。家に帰った後とか、休みの日にやっていると思います。
勤務時間内に勉強ができればいいのですが、勉強しにくい職場が多いように思われます。
私の新卒時代の経験ですが、診療の合間に本を読んでいたりすると、看護師さんから嫌みを言われることが結構ありました。獣医師なんだから知っていて当たり前と思われているので。
コンサル西川:知らないことがあって、それをそのまま勉強せずにいることの方がむしろ問題だと思うのですが。
匿名女性獣医師:そのため、自宅で勉強している人の方が多いのではないかと思います。
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※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。
この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。
これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。