他業界と比べ問題だらけ…?原因は獣医療以外の知識不足!
女性獣医師の本音トーク その11 part2(①働く現場の生の声+②院長への提言)
そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
それは、女性獣医師の存在です。
メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生がご執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。
動物病院の現状と課題 ~ 他業界と比べて問題だらけなのは、獣医療以外の知識不足が原因 ~ <後編>
匿名・女性獣医師
【編集部:注】
前編では約4年間の小動物臨床現場での経験を赤裸々に語って頂きました。後編ではその経験を踏まえて感じた「獣医業界の課題点」をお話ししていただきます。
動物病院の課題点
- 給料面
- 時間の融通と責任感との折り合い
- 獣医療以外の院長の知識不足
①お給料面
まず、「圧倒的にお給料が少ない」ということです。
私立の獣医大学では6年間で1300万円ほどの学費を払い、一生懸命に勉強して卒業し、国家試験に合格して初めて獣医師免許を取得できます。
1人の人が獣医師になるのに、それだけ時間とお金がかかっているのです。
しかも、実際の仕事内容はさらに過酷です。命を扱う仕事なので、それだけ責任が重くのしかかってきます。もちろん助けることができたらそれは大きな喜びですし、やりがいでもあります。
ただ大変だからこそ「もっとお給料もらってもいいんじゃないの?」とどうしても思ってしまいます。
②時間の融通と責任感との折り合い
一度自分が診察した子に対しては、“最期まで責任を持って診てあげたい”と思っています。
独り身で時間に融通が利くうちはまだ良いですが、女性の場合は家庭を持ったり子供ができたりすると、さらに時短勤務になり今までと同じようには働けなくなってしまいます。
担当していた子が急に具合が悪くなった時、自分が診てあげられないことも増えてくるでしょう。
逆もまた然りで、子供のお迎えがあるから帰らないといけない時間だとしても、重い症状の子の診察中では検査や治療、飼い主さんとのお話しなどで時間がかかり、定時に上がれないこともあります。
命を扱う仕事である分、融通が利きにくいところは否めません。
③獣医療以外の院長の知識不足
色々と話してきましたが、これでも動物病院の労働環境は年々良くなって来ています。昔はさらにブラックで日超えも当たり前だったとのことですから、年配の獣医さんには頭が上がりません。
しかし、他業界と比べると問題点だらけだと感じています。
そもそも、獣医は一般的な会社で教わるであろう常識や、生活していれば必然的に直面するであろう知識を経験する機会が極端に少ないです。就職活動もバイトの面接のようなレベルでOKですし(もちろん身だしなみや挨拶など、基本的なことは前提として大事ですが)、一般的なマナー、名刺の渡し方・受け取り方、メール文章の書き方やコンピュータの知識、お金の知識など、学ぶ機会は基本的にありません。
臨床獣医師は一つ社会に出たら、何も使い物にならないのではないでしょうか…。(私がそうでした)
しかも開業を目指している獣医師は、勤務医時代は働いてなんぼの精神でいたと思われます。経営や人材育成など、学ぶ機会があるはずありません。
労働基準法をちゃんと理解している院長は少ないのではないでしょうか。
また勉強熱心な院長であればあるほど、部下にも同じ熱量を求めてしまう人も多く、パワハラにもなりかねません。勤務医が辞めてしまう原因の一つになると感じています。
女性獣医師が働きやすい環境とは
- 時間の融通が利く
- 仕事の重さとお給料面が一致している
大きくはこの2点です。
ここでは簡潔にお伝えしますが、獣医療の専門分野への分業化も関与しているかもしれません。人の医療と同じように、循環器・呼吸器科、腎泌尿器科、内分泌科、整形外科などに分かれていて、専門性がある獣医師の方が、雇用する側からみると雇いやすいように思われます。
しかし先ほどもお伝えしたように、そもそも獣医師の常識のなさが根本的にあると思います。
他業界との関わりが少なく、世間一般の常識を知らない獣医師も多くいます。日々獣医療も進歩している中で、獣医学の勉強もしつつ経営にも携わっていくのはなかなか無理があります。
獣医療のみでなく社会人としての基本的な知識やお金の勉強など、根本的に教育環境から見直す必要があるのではないでしょうか。
【追記 コンサル・西川からの匿名先生への質問】
コンサル西川:最初の勤務病院は、あえてハードワークが分かった上で入られたとのことですが。
匿名先生:はい、そうです。忙しいことを知った上で入りました。
コンサル西川:毎日が21時、22時に勤務終了というハードな動物病院はあまりありません。
匿名先生:先輩からはやんわりと「終わりは21時か、22時かな」と聞いていました。入った時は、獣医業界ではいきなり繁忙期になりますので、ハードワークの覚悟は出来ていました。
コンサル西川:2件目の病院ではハードさを避けた病院選びをされていますが、どんな勤務形態との動物病院だったのでしょうか。
匿名先生:昔はハードワークだったらしいのですが、コロナ禍になって予約制を導入したこともあり、勤務時間が短くなりました。元から11時間勤(10時間勤務の1時間休憩)は決まっていました。
コンサル西川:週休2日制で、毎日の勤務が11時間以上だと、残業が発生することになりますが。
匿名先生:その分を込みして給与が支払われていたように思います。
【追記 コンサル・西川からのコメント】
この匿名先生が述べられているように、この動物病院業界ではこの残業代については、最初からある一定時間の残業代を込みにした「みなし残業代・固定残業代」として支払われているケースが多いです。
「医療という仕事柄、獣医師は残業が当たり前」と院長も勤務医も捉えていますが、この意識がハードワークを生み、「こんなに働いているのに給与が低い」と気付いた勤務医が辞めてしまう結果になっています。
「残業代の未払い」もまだまだ当たり前にあるのが、この動物病院業界です。
これは、獣医師は労働基準法を知らない人が多いことに起因していると言えます。
■この記事には<前編>があります。<前編>の記事は、こちらからアクセスしてください。
※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。
この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。
これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。