院長先生は『経営者』として労働環境を改善するべきである
女性獣医師の本音トーク その54 Part2(①働く現場の生の声+②院長への提言)
そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
それは、女性獣医師の存在です。
メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生がご執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。
急に退職したスタッフ その責任は誰にあるか?<後編>
【編集部・注】
前編(Part1)では「スタッフが突然退職した時」の実際の経験をお話して頂きました。後編ではコンサル西川と匿名女性獣医師の対談の続きを、そして院長への提言を掲載します。
〇匿名女性獣医師
【続・コンサル西川からの匿名女性獣医師への質問】
匿名女性獣医師:私の先輩の動物病院は、院長が早く帰りたい人だったので、19時に診療時間を終えたら、急患が無い限り、19時半までには病院を出ましょうという空気感の病院だったと聞いています。
コンサル西川:先生の勤めた病院の院長は、勤務医が長時間務めていることがきちんとやっているという考えの人だったのかもしれません。
匿名女性獣医師:院長が勤務していた動物病院も、体育会系のこんな病院だったと聞いています。
コンサル西川:ただ開業を目指している勤務医にとっては、20代の若い頃には厳しい労働環境で働いて開業できるスキルを磨いて、開業の自信をつけることは大事なことではあるのですが。
長時間労働が原因の退職の対処は院長の仕事である
本来、スタッフのマネジメントや人事の責任者は経営者である院長夫妻の仕事です。このため、人事の問題が起こった際に率先して対応を考えなければならないのは、院長夫妻のはずです。
にもかかわらず、スタッフのマネジメントを現場に丸投げし、問題が起こると残ったスタッフを責めるケースは、他の病院でも時々見られるそうです。私のいた病院に関しては、急に来なくなったスタッフとの連絡さえ従業員であるAHTのチーフに丸投げしていました。
これは私の個人的な意見かもしれませんが、長時間労働を原因に退職するスタッフが続いた場合に院長夫妻が取るべき行動は、残ったスタッフを責めることでも、スタッフ間の精神的なつながりを強めさせることでもなく、雇用の待遇面を改善することです。
要するに、労働時間を減らすか、給料を上げるかだと思います。
私の勤めていた病院のAHTの給料は月に20万円ほどで、手取りが13万円だったりすることが多い当時のAHT業界では高めでした。
それゆえ、院長夫妻は「給料は十分に支払っている!」と息巻いていましたが、それは他の動物病院と比べての話です。
比べるべきは自分の病院よりも賃金の低い動物病院ではなく、退職したスタッフと同年代の人たちの平均的な待遇ではないでしょうか。
動物病院よりも勤務時間が少なく、休みも取りやすく、それでいて賃金が高い職業はたくさんあります。事実、急に来なくなって辞めてしまったスタッフは、その後、動物には関わっているものの、他業種に転職していました。
スタッフに長く働いてもらいたいのであれば、「責任感」や「お世話になった恩」という個人差があるような精神的なものに期待するのではなく、目に見えてわかる労働時間や給料にメスを入れるべきだと思います。
もちろん、急に来なくなってそのまま退職するスタッフにも問題はありますが、そういったトラブルが度々起こるのであれば、病院側にも必ず問題があると思います。
スタッフのせいにするのではなく、経営者として労働環境を改善するべきではないでしょうか。
なお、今回紹介したスタッフの退職に限らず、例えば新卒獣医師の教育や、子育て中や介護などの問題で勤務時間などに配慮が必要な獣医師がいる場合、そのマネジメントを現場に丸投げし、そこで起こった問題に関してスタッフに責任を問う院長も多くいるそうです。
しかし、何度も言いますが、スタッフのマネジメントや人事の責任者はあくまで経営者である院長です。
院長が問題から目を背けている限り、問題が解決することはないのではないでしょうか。
※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。
この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。
これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。