女性獣医師に優しい病院づくりに長年取り組む病院の現場のホンネ
女性獣医師の本音トーク その15 Part1(特別編 / 男性動物病院経営者)
そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
それは、女性獣医師の存在です。
メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生へのインタビューを行い、執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。
【編集部・注】
ベテリナリオでは、女性獣医師に勤務状況や給与、現役継続・復職のための条件、院長への提言などを募集していますが、現役動物病院経営者がご自身の病院で勤務されている女性獣医師と院長へのインタビュー記事をお送り下さいました。特別編として掲載します。
※この記事には中編・後編があります。掲載できる文字数の関係上、インタビューが途中で切れている部分もありますので、続けて読むことをお勧めします。
女性獣医師に優しい病院づくりに10年以上取り組んできた病院で働く女性獣医師の声 <前編>
1、当院で勤務5年を迎える女性獣医師にインタビュー
雇用形態は正社員で、平日9:30~19:00の勤務時間。
ライフワークバランスを重視しての採用のために平日のみの勤務で、土日祝日は休日にしています。
●「女子獣医師にとって専門性の特化は武器になりますか?」
腫瘍科は内科的に管理が可能なので、専門性が武器になると考えています。
●「一般的に女性獣医師の勤務継続が困難な理由はなんだと思いますか?」
働ける時間です。
やっぱり、ブランクがあっても受け入れる側の体制が充実していないと継続して働けないと思います。短時間しか就業していなくても、しっかり指導してくれる教育方針があると、「この職場で働き続けたい」と感じます。
それがあるとその時間帯だけでもしっかり働きたいという女性獣医師にとっては存在意味が出てくるのではないでしょうか。
女性獣医師の場合は、男性獣医師と違って、働く環境の理解を院長と周りのスタッフがどれだけ理解してくれるかだと思います。
いくつかの病院で働いてみて、獣医療業界は若い女性が多い職場なので、子持ちの女性獣医師の働く環境への理解がむずかしいのだなと感じました。前に勤めていた職場では、私が午前中で退勤することに対して女性看護師さんの風当たりが強く、大変悩みました。結局、精神的に耐えられず退職することになりました。
現在の職場では、入社当初から、午前中のみの出勤体制が勤務の事前からスタッフに周知されていたので、途中で退勤することになっても理解を示してくれて働きやすいですね。
子供が体調を壊してしまうと急に休む事になるので、職場に理解があることが大前提だと思います。
●「女性の獣医師の離職率を改善するためには?」
「自分に合っていない職場である」と感じたら躊躇せずに転職をすれば良かったと思いました。
私は転職を躊躇して3年間も辛い時間を過ごしていまい、悔やんでいます。この職場に来て、すぐに多くの経験と技術を身につけられて今はとても満足していますが、振り返ると3年間は後悔しちゃいます。自分にあった場所、働ける場所を探し続け、マッチングする職場を探すことも重要であると感じました。
●「経営者側が今後どうしていけば女性獣医師の復職環境が整うのか?」
1 時間で区切ってすぐに返してくれる環境作りとスタッフの理解
2 イレギュラーな休みに対応してくれる勤務体制
3 そして、この雰囲気が入社当日からしっかり守られていること
【追記 コンサル西川からの匿名経営者への質問】
コンサル西川:先生の動物病院での「教育方針」は、具体的にはどういうものでしょうか。
匿名経営者:獣医療であれば「教科書を見て下さい」ですが、私のポイントはそこではなく、「職場は楽しくてワクワクして、自分はここで必要とされている人間なんだ」ということを女性獣医師さんに伝える熱意だと思っています。
「あなたが居ないと困るから勉強して下さい」
「共にワクワクしましょう」
「互いに思いやりを持ちましょう」ということが大切。
私は女性ばかりが働く病院の勤務医から会社経営者になりましたが、獣医師は社会人としては「非常識人」なので、人間関係の軋轢が起きると思います。それゆえ、「どうすれば楽しく仕事ができるのかを互いに考えましょう」というのが、私の会社の教育方針です。
コンサル西川:女性獣医師になぜ復職したのかをお聞きしますと、「家事や育児は評価されないから仕事に復帰して評価されたい」と言います。先生のこの教育方針とはマッチしているように思うのですが。
匿名経営者:私は出社すると、まずは1人ひとりに必ず声を掛けます。気に掛けてもらっていると「承認欲求」を満たすことはとても重要であると考えているからです。
2、当院で勤務10年を迎える女性獣医師にインタビュー
雇用形態はアルバイトで、平日9:30から19:00の勤務時間。
●「この10年間の勤務が可能だった理由を3つほどあげてください」
院長の、女性獣医師を取り巻く環境への理解とバックアップ人員、そして私自身の働き方の心構えです。
●「それは実際どんなことですか?」
① 院長の勤務女性獣医師への立場を積極的に理解しようとするマインドがとても重要でした。
例えば、復帰する既婚女性獣医師を雇用するにあたり、家族構成やあるいはそれに関わる種々の個人的事情に関するリサーチとヒアリングをこまめに行い、それに応じた働きかたを提案し続ける努力や働きかた改革がありがたかったです。
子供がいますので、その子供が成長し、働く時間帯も大きく変化する可能性を前もって話し、ある程度の人生プランを雇用主側とミーティングを重ねてきました。
② バックアップ人員の存在
既婚女性は、家族という構成の中心的な役割であり、子供の事情や夫の仕事などによって、男性獣医師と異なり、急な休みが必要な場合が多々あります。
経営者側としては臨機応変に対応するために人員の補充が欠かせません。
そのバックアップ人員が存在することで、既婚女性獣医師は、休むことに対する負い目を負う事なく病院での立場を確立でき、さらにそれを柔軟に受け入れるスタッフたちへの教育体制があることも欠かせない要素だと感じました。
③ 私自身、何かあった時に理解してもらえるように、コミュニケーション(雑談・対話)を心がけたことと、会社全体の動きをできるだけ把握し、自分の会社内でのポジション・役割を俯瞰して把握するように勤めました。
そのため、孤立したり排除されたりしない結果になったと考えておりますが、一緒に働いてくれるスタッフの人柄ゆえに可能だったのかもしれません。
この10年を通して考えても、「女性獣医師側は働かせてもらっている」「雇用者側は働いてもらっている」という意識があるからこそ、10年間の雇用信頼関係の構築に至ったと思っています。
■この記事は<中編>へと続きます。<中編>の記事は、こちらからアクセスしてください。
※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。
この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。
これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。