女性獣医師に優しい病院づくりで院長の考える6つのポイントとは
女性獣医師の本音トーク その15 Part2(特別編 / 男性動物病院経営者)
そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
それは、女性獣医師の存在です。
メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生へのインタビューを行い、執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。
【編集部・注】
ベテリナリオでは、女性獣医師に勤務状況や給与、現役継続・復職のための条件、院長への提言などを募集していますが、現役動物病院経営者がご自身の病院で勤務されている女性獣医師と院長へのインタビュー記事をお送り下さいました。特別編として掲載します。
Part1<前編>ではこちらの病院で働いている女性獣医師の方のリアルな声を掲載せていただきました。今回のPart2<中編>では、院長先生の考えを聞かせていただきます。
※この記事には前編・後編があります。掲載できる文字数の関係上、インタビューが途中で切れている部分もありますので、続けて読むことをお勧めします。
女性獣医師に優しい病院づくりに10年以上取り組んできた病院で働く女性獣医師の声 <中編>
3、当院の院長の考え ~ 専門性は有利だが、リスクもある ~
●「今後女性獣医師が継続勤務するにあたり、雇用主側は何を把握しておくべきと感じますか?」
女性獣医師がどういった家族環境なのか?
例えば、未婚・既婚子供あり、もしくはシングルマザーなのかで、雇用主側はある程度の配慮する必要があると思います。
しかし、周囲のスタッフに共通認識を持たせないと、事情がわからず、早く帰宅させたりすることが不公平と誤認されてしまう可能性もあり、病院全体の問題になっていく可能性をはらんできます。
●「女性獣医師の復職の際に専門性は有利に働くと思いますか?」
専門性を持っていることは復職に有利だと思います。ただ、専門性ゆえに雇用関係が成立した際には、女性獣医師側及び雇用側のいくつかのポイントですり合わせが必要だと感じています。
●「すりあわせが必要と感じた理由はありますか?」
双方にとって専門性が発揮できる時間帯やニーズが制限される可能性があります。
例えば、新たな看板として、専門性を宣伝するにあたり、女性獣医師側の働ける時間帯とクライアントのニーズが必ずマッチするかの確認が必要ですね。
また、女性獣医師側が家族との時間確保を優先した場合(ライフワークバランス重要視)、雇用側からは女性獣医師への期待値を下げる原因につながってしまいます。例えば、せっかく雇ったのに家族行事で休むことになってしまう、とか。
そのために専門性を有している人材を雇用した際は、雇用側の経営的、戦略的な判断を迫られ、それに変わるバックアップ人員がいない限り困難だと考えています。
緊急性を要さない皮膚科などの専門分野であれば、雇用側にもニーズはあると思います。そして女性獣医師側にも、時間的な制約から解放されて、精神的な余裕をえられて復職への道が開ける可能性はあります。ただ、専門分野に対する歩合制などの雇用側への配慮も必要と感じています。
●「専門性を有する先生を雇用する際の注意点はありますか?」
専門性を有する女性獣医師をメインで雇用する場合は双方にとってリスクがあることを念頭に入れておく必要があります。
~ 6つのポイント ~
① 専門性の分野
・外科・神経科などの緊急を要する専門性は、女性獣医師側に時間的余裕がないとクライアントとのクレームにつながります。
② 退職した際の経営的リスク
・専門性を有する獣医師に経営学的側面を期待しすぎてしまうと、その人が退職した時の経営的損失を考えざるを得ません。
③ 雇用主側の技術的ある程度の学術的能力及び医療機材の補強
・専門性が高いと、雇用主側がある程度の知識を有さないとその獣医師の技量の真偽の判断が困難です。また、雇用する上で必要な機材などを揃えるために設備資金が必要です。
④ 経営者側として、トラブルに発展した際のある程度のリスクの覚悟
・専門性が高いとはいえ、雇用形態によってはクライアントの緊急度に対応できない可能性があります。それに伴いトラブルが発生する可能性も考慮しなければなりません。
⑤ 既存病院が持ち合わせていた診療方針の専門性とのすり合わせが必要
・既存病院が伝統的に行なってきた診療スタイルに専門医を招き入れるとある程度病院方針の変更が必要になる可能性があり、それをどこまですり合わせをするのかの話し合いが必須です。
⑥ 専門性のエビディンスとその賃金、そして、それに見合っているのか?
・時間単価で計算するのならば、総合的に売り上げ比率との整合性を考える必要があります。
●女性獣医師の復職への期待と今後の課題
雇用側としては、女性獣医師に求めるのは技術的な専門性の優位性よりも「多角的な目線とコミュニケーション能力」が男性獣医師によりも優れている点にスポットをあてるべきであると考えています。
また、女性獣医師側も「社内にいなくてはならない存在」という自己価値やポジショニングを構築することを目標に責任感を持って職場で働く必要があります。さらに男性獣医師よりも女性獣医師は協調性に優れている場面も多く、臨床現場では、それを雇用主側が上手に活用し、クライアントに合わせた担当医の割り当てを考えることも可能です。
どちらにしろ、女性獣医師側・雇用主側の両方が「女性獣医師の未来」のために雇用形態を柔軟に構築していく必要とそれにどう関わっていくかが今後のキーポイントになるのは間違いないと思われます。
そして、近い未来に訪れる「動物医療改革」を目前に、女性獣医師の重要性は大きく変わってきており、その分野を発展させて現場で生かすことが可能ならば女性の復職への道は期待できます。
■この記事は<後編>へと続きます。<後編>の記事は、こちらからアクセスしてください。
※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。
この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。
これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。