女性獣医師に優しい病院院長の考える「女性獣医師側の課題」とは
女性獣医師の本音トーク その15 Part3(特別編 / 男性動物病院経営者)
そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
それは、女性獣医師の存在です。
メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生へのインタビューを行い、執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。
【編集部・注】
ベテリナリオでは、女性獣医師に勤務状況や給与、現役継続・復職のための条件、院長への提言などを募集していますが、現役動物病院経営者がご自身の病院で勤務されている女性獣医師と院長へのインタビュー記事をお送り下さいました。特別編として掲載します。
今回の特別編はこのPart3<後編>が最後となります。Part2<中編>で聞かせていただいた院長先生のお話の続きを、記事の後半では対談形式で女性獣医師の職場復帰について採用事例やご意見を伺いました。
※この記事には中編・後編があります。掲載できる文字数の関係上、インタビューが途中で切れている部分もありますので、続けて読むことをお勧めします。
女性獣医師に優しい病院づくりに10年以上取り組んできた病院で働く女性獣医師の声 <後編>
4、当院の院長の考え ~ 女性獣医師が働きやすくなるために ~
●女性獣医師側の問題
女性獣医師は自らの臨床技術の向上の意思表示(つまり仕事への熱意ややる気など仕事に対しての誠実さ)をスタッフに率先的にアピールを行う立場にいることを自覚して職場に従事する必要があります。その上で「仕事をしたくてもできない環境である」「働く時間帯に制限がある」ことを発信し、さらに知ってもらいたいという努力をしていかければなりません。
なぜなら、誠実な仕事をする姿を見せてこそスタッフや雇用側クライアントからの信頼を得ることができ、そして、それは有能なビジネスパーソンとしての評価につながります。
会社に貢献する姿を先頭に立って発信することが、使い捨ての獣医師にならない大きなポイントだと感じています。会社は生き物です。よりよく成長していくためには、自らがお手本になるように、自分の存在意義を発信し続け、社会貢献する熱意が必要です。
女性獣医師の多くは今までの臨床経験が浅いために、復職するとその病院の経験者としての期待度に対するギャップが生じて、現場で苦労するケースが多々あります。獣医療は日々進歩を重ね、さまざまな薬が開発され、診断技術も飛躍的に伸びています。
そこに、「浦島太郎の太郎」のように数年のブランクがある女性獣医師が勤務することになると、知識・技術のブラッシュアップが必要になり、同僚スタッフの指導などの協力は欠かすことができません。それが成り立たないと、最終的に雇用主側と女性獣医師側に精神的な負担が生じてしまい、就業が困難になります。
女性獣医師側は、プライドを捨て、新たな医療を学ぶ気持ちと熱意で学ぶ姿勢を持ち、その一方、雇用する側は、「教えることは教わること」という思いで、熱心に指導することが大切です。
双方が諦めず、現状を打破する熱意さえあれば女性獣医師の復職の道は明るいと思います。
●多様化する業務と働きかたについて
【今回のコロナ禍で感じた動物医療業界の問題点】
当院では幸いにして、コロナウイルスに罹患したスタッフはいませんでした。しかし、考えさせられる部分は多く、獣医師は臨床業務だけを実践する仕事だけが果たして正解なのか思案しています。
当院では女性獣医師が多く現場で働いていますが、さまざまな理由で、現場に出勤できない状況を考えていく必要性に迫られています。
経営者として、出勤できない獣医師を、「どうビジネスに繋げていくのか?」「臨床現場で働けない獣医師は必要ないのか?」「生産性という言葉だけで、獣医師を評価していいのか?」と日々悩んでいます。
2020年代からデジタルDXの時代と呼ばれていますが、医療の効率化という面ではデジタル化が浸透していくのは明白です。しかし、日本の動物医療の基礎は「ひと対ひと」が重要であり、そこはデジタルではなく、優しさと誠実さを備えたおもてなしサービスが動物病院業界であるということを忘れてはいけません。
自宅でも可能な獣医師の業務のアイデアを考える上で、「動物病院の獣医師=臨床獣医師」という固定概念を一旦捨て、無から有を生み出す、つまり仕事の多様化のあり方を思案し、実践しています。
例えば、自宅勤務を余儀なくされた獣医師は、この2週間で診察した患者様に当院のアンケートや診察後のフォローアップ電話を行うことで、当院の企業価値が上がりました。電話をもらったクライアントも、コロナ禍の中で、動物病院への来院を遠慮していた方もいましたし、薬やフードの郵送注文にもつながりました。
このきめ細やかなサービスができる獣医師の活躍のイニシアチブをとれるのは女性獣医師だと感じましたし、今後も女性獣医師を臨床獣医師という枠から外し、眠っている才能を発掘しタレント(才能のある人物)として成長させる企業でありたいと思っています。
「何をしてもらうかではなく、何をしたいのか?そしてそれにどう答えていくのか」が、経営者の責務です。専門性を特別に持たなくても、女性獣医師は男性獣医師には持ち得ない、人間的な魅力を見つけてあげることがもしかしたら、女性獣医師の復職への近道なのではないかと思います。
【追記 コンサル西川からの匿名経営者への質問】
コンサル西川:職場復帰の女性獣医師の採用事例はありましたでしょうか。
匿名経営者:事例はあります。
コンサル西川:その方はその後どうされたのでしょうか。
匿名経営者:1年も経たずに辞めています。
コンサル西川:その理由はどういうところにあったのでしょうか。
匿名経営者:当院は長時間の拘束はしないので、労働環境が理由ではないと思います。
コンサル西川:そもそも職場復帰の難しい業界ですから、職場復帰したのに1年で辞めるのは実にもったいない。
よく分からない理由で辞めてしまったということでしょうか。
匿名経営者:子育てに専念したいというのが理由ではないかと捉えています。
コンサル西川:一般社会では2000年あたりから「共稼ぎ夫婦」が増えていますが、この獣医師業界ではそうはなっていません。その理由は、動物病院にはまだまだ長時間労働があって、家事や育児で時間が合わないことだと考えていたのですが、先生のお話によると、長時間労働でなくても、女性獣医師は残らないことになります。
匿名経営者:獣医師という職業は、精神的な負担が大きい仕事です。たとえ短時間勤務といえども、そこに精神的苦痛を伴うとなると、勤務継続や復帰を選択しづらくなるのではないかと思います。
※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。
この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。
これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。