15年のブランクを経て「中医学」で再び活躍する女性獣医師の例
女性獣医師の本音トーク その20 Part2(特別編 / 院長による女性獣医師インタビュー)
そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
それは、女性獣医師の存在です。
メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生がご執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。
【編集部・注】
※ベテリナリオでは、女性獣医師に勤務状況や給与、現役継続・復職のための条件、院長への提言などを募集しています。今回は、現役院長が様々な形で活躍されている女性獣医師へのインタビュー記事を送って下さいました。
このインタビュー記事をPart1、Part2、Part3と3つに分けて、それぞれのケースを紹介させていただきます。
前回のPart1は往診専門の業態で独立されたという女性獣医師のお話でした。獣医師業界の中では往診専門というスタイルは珍しく、非常に興味深い内容だったと思います。今回のPart2はどのようなケースなのでしょうか。
私自身、鍼灸をはじめとしたいわゆる中獣医学に関わった仕事に携わる機会が多いためか、女性獣医師の先生方とお話しすることが多くあります。その中でも幅広く活躍されている先生方を拝察します。
実際、先生方の年齢層、臨床経験を含めた経歴などはバラエティに富み、どのようにして獣医療と接し活動されているのか関心を持ちました。それぞれにとっての悩み、それを解決に繋げて今日に至るのかをお尋ねしました。
【CASE 2】 配偶者が院長の動物病院で専門科目を中心に診療
夫婦ともに獣医師でご主人が動物病院を開業し、そこで復職をしたという例です。
復職の直接のきっかけはご主人が心筋梗塞で倒れて入院し、病院の診療をしなければならなくなったことです。
当時一番下のお子様も中学生になり今後の事を模索している時と重なったこともあり、1ヶ月後ご主人が無事に復帰をされましたが、この機会に臨床の現場に戻らなければ次は無いかもしれないと感じ、復帰の決心をされたそうです。
復職にあたって不安だったこととして、15年以上臨床の現場から離れていたことによって、採血など技術的な部分において現在の診療レベルについて行けるかという点を挙げられました。
復職された当時40代後半で新しく色々覚えるのにはかなりご苦労されたとお話されていました。
プライドについて、これが一番厄介だったというのが印象に残りました。若いスタッフに色々と聞き辛いということだけでなく、患者さんからの「この獣医大丈夫かな」という不安な感じに対する焦りもあったようです。
臨床現場に復帰したからと言って、家事が減るわけではなく、仕事量が増えたという結果となりました。病院のスタッフとご主人も最初からすんなり復職を受け入れてくれたわけではなく、「足手まといなのでは?」と感じることもあったそうです。
その時は対策と言っても何も考えられず、ただひたすら遅れを取り戻そうと必死に対応されたそうです。
そんな時、犬猫の鍼灸講座に参加させて頂き、新たな医療のアプローチ知り、勉強する機会を得たことで新たな人脈を得た一方、自身の技術に自信を持つことができて現在に至っていらっしゃいます。
「男女平等で男性も育児休暇をとって手伝うと言っても、完全に役割を交代することはどうしてもできない部分がある。子供を産み、育てるにはやはり女性しか出来ない事も多く、女性獣医師が男性獣医師よりブランクが生じる事があるのは仕方のない部分があると思う。これは男女差別ではなく男女差かな。」と先生は仰っていました。
「ブランクを抱え活躍の場を探している世代の女性獣医師は、自分の身体ひとつ、五感そして経験で診療できる中医学がいい道標になるのではないかと思う。感性が活きる中医学は、自身にとってまさに空いたピースを埋めるような存在となった。」とお話しされ、中医学との出会いがご自身にとって大きなターニングポイントとなったようです。
女性獣医師が今後より活躍するために必要な事は、既婚、特に子育て期の女性獣医師にはご家族の理解と協力、保育施設の充実を挙げていらっしゃいます。
規模の大きな病院であれば、休日の確保や時短勤務などを行ってなるべくブランクを無くすか、短く出来る仕組みの確立が必要となると思われます。
現在の獣医大学の男女比率を鑑みてもこれから女性獣医師が多くなることから、きっと給料面より働き易さ重視になるとのお考えでした。
【追記 コンサル西川からの匿名院長への質問】
コンサル西川:職場復帰されるのに、プライドをある程度捨てて若い人に教えてもらうことまでやられる方は少ないのですが、この【CASE 2】の先生は、プライドを捨てたことで復職が上手くいったという事例になるのでしょうか。
匿名院長:そうだと思います。若い人から教えられるという立場になったことがないので私には分からないのですが、臨床医を離れたブランクが長いと、獣医療の知識などでは若い人とは逆転してしまうこともあり得るでしょう。そのため、若い人から学ぶことで自分のキャリアアップにつなげると気持ちの切り替えができる人は、職場復帰がしやすくなるのではないかと思います。
コンサル西川:これまでに多くの獣医師の開業支援をしてきまして、50歳を超えてから公務員や企業勤務から転身して小動物臨床ゼロ経験から開業をスタートして上手くいったという事例をたくさん知っています。
ゼロからのスタートとなると、当然、若い人から学ぶことになりますが、プライドにこだわっていると開業などできません。逆に女性獣医師の方にプライドにこだわる先生が多いように思われるのですが。
匿名院長:私もそう思います。公務員や企業勤務から開業された先生には、小動物臨床はこれまでの経験とはまるで違う分野になるので、プライドとはあまり関係がなくなるのでしょう。ただ小動物臨床を続けられてきた先生なら、自分なりのやり方を持っているというプライドがあるので、そのプライドが邪魔をしてしまうのかもしれません。
コンサル西川:そうなんです。プライドが邪魔をして職場復帰できないと考えてしまうのは、あまりにもったいないと思います。
匿名院長:経営者の目線から言えば、獣医師を復帰させる場合には、「プライドを持っている人が多い」という情報を頭の片隅にでも入れておいて、その人のブランクを埋めていけるようなフォローアップの方法を色々と考えていかねばならないのだと思います。
コンサル西川:ブランクがあって戻って来たい獣医師に対して、「そんなブランクなどは気にしなくてもいいよ」と院長がフォローすれば、本人はすんなりと学び直して臨床に入って来ると思うので、やはり、院長のフォローが大事ですね。
■この記事はPart3へと続きます。Part3の記事は、こちらからアクセスしてください。
※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。
この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。
これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。