長期間のブランクとは人生経験から得た貴重なノウハウである
女性獣医師の本音トーク その20 Part6(特別編 / 院長による院長への提言)
そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
それは、女性獣医師の存在です。
メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生がご執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。
【編集部:注】
ベテリナリオでは、女性獣医師に勤務状況や給与、現役継続・復職のための条件、院長への提言などを募集していますが、女性に働きやすい病院づくりをされている現役院長が多くの院長に向けた提言をまとめて下さいました。
この記事は、ベテリナリオが院長に「女性に優しい病院とはこうあるべき」とお伝えしたい内容がズバリありますので、「女性獣医師の本音トーク」というタイトルではありますが、特別編として掲載します。
前編(Part4)、中編(Part5)と続いてきたこの特別編も今回の記事で最後になります。後編では、女性獣医師が復職するにあたって何が「壁」となっているのか、そして2022年5月より愛玩動物看護師法が施行され大きな変革の時期に入った動物看護士についてもお話を伺いました。
※今回の特別編は、前編(Part4)、中編(Part5)、後編(Part6)と3つに分かれています。
一動物病院開業医からみた女性獣医師がさらなる活躍をするための考察《後編》
私は地方で動物病院を開業しております。現在獣医師1名、つまり筆者である私と動物看護職に従事している者が3名、トリマー1名の構成です。今後の業務の状況如何によって、さらに優秀な人材を確保しなければならないと考えております。
女性獣医師の復帰の「壁」になっているのが、長期間のブランク
一方、長期間のブランクのフォローにも目を向けていくべきと考えます。
この業種に限ったことではありませんが、一定の期間をおいて第一線に立つということは想像以上に勇気と覚悟が必要です。
高度な技術や知識を必要とする獣医師では尚更責任感を持って対峙することになりますので、「自分に務まるのだろうか?」と心配になって当然なのではないでしょうか。それを取り戻すことは容易ではありませんが、これまで培ってきたスキルや、人生経験から得られたノウハウというものはやはり貴重なものとなりますし、病院の財産になるものです。
女性獣医師のテーマから少々外れますが、動物看護職に関わる分野も現在大きな変革の時期に入りました。
2022年5月より愛玩動物看護師法が施行され、動物看護を行う上で国家資格として認定されます。
当院でも、看護に従事しているスタッフのモチベーション向上として、資格所得のための補助や勉強会などに積極的に協力しバックアップを行っています。経営者目線と従業員目線、さらには獣医師や看護職の人、それぞれ考え方や理想は異なります。それぞれの希望を丁寧に汲み上げ、「ここで仕事ができることが幸福である」と思えるような動物病院の構築がより一層重要になっていくものと感じます。
人材は人財とよく表現されますが、今後より厳しくなるであろう動物病院運営を持続的に行うために、女性獣医師のより一層の登用が意味を持ちます。業界全体の発展のために女性獣医師が活躍できるチャンスを経営者から提供する義務があるのではないでしょうか。
【追記 コンサル西川からの匿名院長への質問】
コンサル西川:女性獣医師の方々にお伺いすると、過酷な労働環境の他に、時給換算すると給与が安すぎる点をご指摘されます。この人材不足で獣医師を採用していくためには、この時給をアップしていくことがキーポイントになってくるわけですが、匿名先生の病院ではこの時給アップのための具体的お考えはありますか。
匿名院長: 私の病院では勤務医はいませんが、看護師でも同じであると考えています。
コンサル西川:仰るとおりですね。
匿名院長:この5月から看護師は国家資格になりますので、これから確実に看護師の給与は上がるでしょうから、私の病院は先駆けて全国平均よりもかなりアップしました。
その理由としては、給与アップでモチベーションを上げたいと思ったこと、新たな資格にどんどんチャレンジしてもらいたいことがあります。
例えば、ベテラン看護師に「国家資格になった後に何がしたい?」と聞くと、「訪問介護がしたい」という答えが返ってきました。「まずは調べるところから始めよう」と答えたら、そこからスイッチが入ったみたいです。今年の夏くらいまでには何らかの結果が出てくるだろうと期待しています。
コンサル西川:時給にして、どれくらいアップされたのでしょうか。
匿名院長:看護師で時給1500円です。
コンサル西川:それはすごいですね。
匿名院長:「時給を上げる分、質の高いサービスが要求されるよ」と看護師さんたちに聞きましたが、それでも給与が高い方がいいと言うので決めました。
看護師さんの人材不足も深刻になってきていますので、この時給アップは採用目的というよりも引き留めるためという意味合いが大きいです。
コンサル西川:この給与アップができるのも病院の売上があってのことですが、原資となる客単価はどれくらいまで上げられたのでしょうか。
匿名院長:1件あたりとしては15%くらいアップして、今の客単価は1万円に届くかどうかです。
コンサル西川:地方で1万円の客単価は、かなり高い方だと思います。
匿名院長:漢方や鍼灸などの東洋医療の医療費が上向いてきていることが大きいのかなと思っています。
値段で勝負すると利益が取れなくてジリ貧になってしまいますので、優秀な人材と高レベルの医療サービスに主眼を置くように経営方針が段々と変化してきていると思っています。
コンサル西川:多くの病院が高医療サービスを提供するが、それ相応の診療費は頂くという形での客単価アップが大事であるとこれからも提言し続けたいと思います。
※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。
この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。
これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。