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女性に優しい病院にするために…1つの成功事例をご紹介

女性獣医師,復職,動物病院,診療報酬,給与水準,離職率低下

女性獣医師の本音トーク その21 Part1(特別編 / 院長による院長への提言)

 2022年1月、メディカルプラザの人材紹介事業ベテリナリオは、現在の人材採用難をどうすれば改善の方向に向けさせられるのかを考え始めました。
 そして、その解決の大きなカギとなる存在に気付きました。
 それは、女性獣医師の存在です。
 メディカルプラザのこれまでのコンサル経験から、「女性獣医師は40歳までに80%以上の方が臨床現場をやめてしまう」ことが分かっています。
 しかしながら、なぜ臨床現場から離れてしまうのか、その理由は調べてもどこにもありませんでした。
 そこで、ベテリナリオが独自に調査することにしました。
 ここに掲載している原稿は、女性獣医師先生がご執筆頂いた原稿をできうる限り「そのまま」掲載しています。先生方にも実際にあった出来事などを事実に即して記述して頂くよう、お願いしております。「匿名」での掲載が多いのも、このためです。
※ベテリナリオでは、女性獣医師に勤務状況や給与、現役継続・復職のための条件、院長への提言などを募集していますが、女性に働きやすい病院づくりをされている現役院長が多くの院長に向けた提言をまとめて下さいました。
この記事は、ベテリナリオが院長に「女性に優しい病院とはこうあるべき」とお伝えしたい内容がズバリありますので、「女性獣医師の本音トーク」というタイトルではありますが、特別編として掲載します。


【編集部・注】


 女性が働きやすい病院の1つの「成功事例」です。これから女性勤務医・スタッフを増やして女性に優しい病院作りを考えたい院長の参考になるものと考えて、3回シリーズで掲載しています。

女性獣医師,復職,動物病院,診療報酬,給与見直し,予約制導入

【連載】女性に優しい病院にするためのステップ1 〜 それは「診療報酬の値上げ」から始まった ~

○匿名院長
女性獣医師,復職,動物病院,診療報酬,給与水準,離職率低下

●獣医師・スタッフの給与を上げるためには

 昨今の獣医療を取り巻く環境は劇的に変化しているように感じます。

 獣医師を含めた人材確保、政府が主導する働き方改革、獣医療のサービスの多様化など、これまでの動物病院経営の方法では収支のバランスがとりづらくなっている印象がありました。

 その背景として考えられるのが、被雇用者の給与水準と診療報酬のバランスが一因としてあるのではないかと考えました。

 

 

 獣医療業界は他業種に比べて、よく言えば職人気質、悪く言えば旧態依然とした思想が主となっていました。

 

 勤務医さんの立ち位置を例に挙げます。筆者はいわゆる団塊ジュニア世代で、同世代人口が比較的多い時代でありました。そこに西暦1990年代後半から2000年にかけて、いわゆる就職氷河期を迎えたことでかなりの買い手市場となっていました。

 臨床獣医療業界では著しい就職難という印象はなかったと記憶していますが、初任給の水準としては4年制大学の新卒者と比べても見劣りする状況であったと記憶しています。

 

 昭和的思考となるのですが、丁稚奉公という認識が雇用者、被雇用者ともにあり、「今は給料が低くても自分のステップアップになるのなら受け入れる」という認識が強かったのだと懐古します。

 その結果、ある程度の人材確保が容易であったことや犬の飼育頭数は当時まだまだ増加していたことなどもあり、ある程度の獣医療サービスの診療報酬を上げることを避けながら経営できたものと推察します。

 

●病院の生き残りのために診療報酬の値上げ実施

 時代は変わり、飼育頭数の伸び悩みから減少に転じ、かつ人材難や人件費の上昇、経営に関するコストの上昇、動物病院間での競争といった要素により、経営体力のない動物病院は次第に苦境に立つようになり、今後は旧来の方法では立ちいかなくなり廃業する病院が増加することも想定されます。

 そのような中、経営者が考えるのが診療報酬の値上げです。

 

 物価の高騰によってやむにやまれず転嫁することはどの業界にもあり得ることではあります。

 ただ、暗に「値上げ」といっても、そもそも高いと思われがちな獣医療の診療報酬をさらに上昇させることは、収入の安定化を図るうえでは理想としながらも、既存の飼い主様に受け入れられるのか?という心配と隣り合わせになることを危惧していました。

 そこで、診療の質の向上を図り一診療に対する単価の増加という方法を採用しました。

 

 

 単に診療報酬を上げるだけでは「値上げ感」が色濃くなるため、病院の特色を打ち出すことに注力しました。

 

 獣医療に関しては専門分野のブラッシュアップを進めること、筆者の好きな(得意という域ではないかもしれないが)診療科目に対しSNSやホームページで「推し」をすると同時に学術的な部分での発表を含め、飼い主さまや地域の獣医師に自身の診療科目に関する周知を図ることを進めました。

 その結果、他院さまからの紹介症例が増加しました。診療の質は件数に比例し、かつ診療報酬の増加につながりました。

 

 

 

【追記  コンサル西川からの匿名院長への質問】

コンサル西川:診療報酬の引き上げとして、文中で「専門分野のブラッシュアップを進める」「診療科目に対しSNSやホームページで「推し」をする」などの具体的な例を出されていますが。

 

匿名院長:いわば、他の動物病院との差別化です。普通の病院として埋もれてしまうと経営的にも立ち行かなくなってしまいますので。

 そこで病院のブランディング化を図ると共に、私自身が新たな知識を習得することはもちろんのこと、看護師ができること、例えば、マッサージとか食事のアドバイスで各々が病院の売上を上げることを目指す。売上が上がれば、そのまま、給与に反映させるという流れを形として作り上げたかったと思います。

 

●給与アップは離職率低下に表れる

 看護職に従事するスタッフの給与査定は評価がしづらい職種ではないかと思います。

 

 数値評価で計れない部分が多いのですが、動物看護に関連するもの、あるいは直接看護に関連しないものであっても、業務にあたり有効に活躍が期待される資格に対し査定や評価を行い、昇給を行うこととしました。

 接遇面だけでなく、看護職に従事する人の個性やモチベーションをアップすることに対する後押しを積極的に行い、人材に対する先行投資が、結果として獣医療サービス全体の向上へとつながるものと考えています。

 

 一般に動物看護関連の方の給与水準は低いといわれますが、明確に給与が上がるためのロードマップを作成し、全国水準を上回る給与を維持しています。

 なお、これによって働きやすさにつながり離職率の低下にも表れています。

 

 

 一方、診療報酬の上昇を実施したことによって変化が生じました。

 

 まず、来院件数に関しては総数でいえばほぼ同水準です。正確には微減なのですが、いわゆる狂犬病予防接種のみあるいはこれら予防関連以外でもやや飼育意識が低めの方の減少がみられました。逆によりよい獣医療を希望される飼い主さまの割合増加し、後述する診療単価上昇も相まって、売り上げおよび純利益ともに増加する結果となりました。当初の私の心配は杞憂となったということになります。

 

 

 

【追記  コンサル西川からの匿名院長への質問】

コンサル西川:看護師の給与がアップするためのロードマップを作成されたとのことですが、これは「年齢給+スキル給」などの表を院長が作られて、この資格スキルを身に付けたら、いくらアップすることを明確にされたということですか。

 

匿名院長:はい、そうです。看護師の場合、個別に評価することはすごく難しい。そのため、獣医師よりは給与の算定基準が曖昧になることが経験上分かって来たので、看護師の給与を上げるために、例えば、トリミングのできる人できない人がいますし、民間資格のフードアドバイザーであるとか、少しでも病院にプラスになるスキルを身に付けたら、確実にこれだけの給与は上がりますよと、年度毎の契約更新時には口頭と文書で伝えることでモチベーションアップにつなげようと考えました。

 この方法は、私自身、やって良かったと思います。

 

コンサル西川:これは、一般企業ではよくやっていることです。例えば、ITエンジニアの会社では、◯◯の資格を取ればいくらの給与アップになることが当然になっています。

 この動物病院業界では、こうした仕組みは無くて、これからは必要になるだろうとは考えていました。

 これは何がきっかけとなって導入されたのでしょうか。

 

匿名院長:単純に給与計算する時にこの方法の方が明確になるからです。

 実際に算定基準を作って、看護師に示した際に、「資格取ったら給与、上がるんですか」となって、私は「資格を取る気があるなら、補助を出す」、「資格を取れば自信にもなるし、飼い主さんに新たな提案もできる」、また「万が一、この病院を離れても、資格はあなたの技術として残るから」と、話はトントンと進んで、この方法が出来上がったのです。

 この方法については、どこかの病院のシステムを参考にしたわけではありません。独自で作り上げて来ました。

 

コンサル西川:この方法ができるには、病院の売上がなければできません。資格取得をバックアップすることで看護師のモチベーションが上がって、それが院内の仕事で患者さんへの様々な提案につながり、病院の売上アップに結びついてくるという、好循環になっているように思われます。

 

匿名院長:はい、そうです。

 この資格取得についても、病院の売上につながる資格を優先してもらっています。例えば、フードアドバイザーは、患者さんに合った食事指導、カウンセリングをすることができるので、客単価アップにつながっています。

 高付加価値の仕事をして頂ければ、当然、報酬には反映します。そしてこの食事指導・カウンセリングはその看護師に任せるようにしているので、私はその間に次の患者さんを診たりすることができます。病院的には、仕事の効率化、分業化にもなっています。

 また本人的には、自分の活躍の場が持てるという意味もあり、個々の看護師の能力を「見える化」することで、病院の売上にどれだけ貢献したかを見せることで、自分がどれだけ頑張ったのかがわかるようなっています。

 今のところはこの方法でうまく回っていると思っています。

 

コンサル西川:能力を「見える化」することで、給与の判断基準を明確にしているので、院長としてもやりやすくなっているのではと思いますが。

 

匿名院長:依怙贔屓とか、人間的な好き嫌いとか、これは給与の評価ではあまり出すべきではないと思います。

 正当な評価をする上で、判断基準は誰が見ても分かるようにすべきだと思った次第です。

 

 

 

【ステップ2 スタッフの心的負担を軽減したいと予約制導入】の記事はこちら

 

【ステップ3 スタッフの言葉から「資格取得→給与アップ→客単価アップ」の好循環が始まった】の記事はこちら

女性獣医師,復職,動物病院,診療報酬,給与水準,離職率低下

 ※メディカルプラザ・ベテリナリオは、事業承継を通じて、全国10000件の動物病院院長へ直接「情報誌」を発行し続け、2000人以上の院長、獣医師と直接お会いしてきました。

 この情報発信と直接的な繋がりによって、女性獣医師の本音を病院院長に届けて、人材採用難解決の提案をして参ります。

 これにより、職場改善や経営改善に取り組む動物病院をもっともっと増やしていきたいと考えています。